第1章

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ほほとほほ くちびるとくちびる てとて ひたいとひたい からだとからだ きもちときもち ひととひと  道端に黒い服を着た少女がいて 少し拗ねた様な仕草で家に向かって歩いてる。  彼女が思うのは自分の名前の事で。 莢(サヤ)とみんなに呼ばれているけれど その名前の意味を彼女は知らなかった。 ただなんとなく、気に入らなかったらしい。  外はまだ青空が綺麗で、高台から見ると 街は霞んで見えなくなる向こうまでが 自分の歩ける所を広く広く見せていた。 どこまで続く道なのかが判りさえすれば 彼女は安心したりする。  だから夜は嫌いで。 怖いわけじゃないのだけど、 何か制限があるように嫌いでいようとしている。 それは街の地平線が見えない事にあったりして。  さぁどうぞ。 と月明かりが両手を広げて贈ってくれる様な 高台から見える夜の街は 見ることを与えられたものであって 自分で見つけたものでないということ。  それは、自分でどこまで歩いていいのか 彼女自身が決めなかった事に対しての 薄暗く、ほの明るく、明確な不快、つまり不信で。  昼間、自分が見ている広い街の果てはまるで 陽の光のおかげではなく、自分で拡げたような気分で それはあって当然の誰のものでもない意思の無い光なのに。 夜の光は照明のように 用意された名前を、名指しで呼びとめてられたりして。  さぁ見なさい。 と言われる様な照らされ方で。 その光は暗く頼りなく先が見えず街は迷路のようで 夕暮れよりもずっと深くて立体的で。  手に余って。  太陽の下でも安心した後は、歩くわけではないのだけど 先が見えないからこそ、どこまでも歩いていいんだよ? などと唆しているようで、信じられないという光射す。  自分の納得できない道があるのに そこを照らされても困るだけだったし なによりも、名前で呼び止められる気分が 彼女は好きじゃなかった。  夜は人が捕まっていくから。  高台にポツンとある古い家に戻ると 彼女は一緒に暮らしている白い猫に向って 街で起こった出来事だの、今日来たお客さんの話。  それから街の子供達。 からかう様な、はしゃぐ様なお囃子で 彼女を呼び止める時の気軽な声の掛け方だのを 一通り話しながら食事の支度をする。  白い猫は、人間だったら彼女のお父さんくらいの年齢で。 背が低く少しふっくら丸くて、人懐っこい優しい毛並みをしてる。
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