円冠の箱庭

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そんな思考を他所に、ゼウスによるチュートリアルは淡々と進む。 「そして九人の管理者が全て倒れた時、天界への扉が開かれ、私と諸君らで世界を守るか壊すかの闘いの幕が開ける。 即ち、諸君らは世界を壊す為に、私は世界を守る為に戦う。ただそれだけの単純明快な戦いさ」 そう言うと、ゼウスは一度目を閉じ、何かを考えるような仕草を取る。 その姿を見ながら、俺も脳内で彼の言葉の真意について黙考する。 俺はこれまで殆どと言っていい程にゲームの経験は無いが、それでも身近なところにゲームを嗜む悪友がいたので所謂ファンタジーゲームの王道パターン程度の知識はある。 姫が攫われ、世界征服を目論む魔王を立ち上がった勇者が仲間と共に倒しに行くというストーリー。 あるいは、仲間を引き連れ世界の破壊を望む敵国を倒しに行くというストーリー。 多少の差はあれど、有名なタイトルではこの2パターンが世間では王道と呼ばれるが、そこでは決まってそのゲームをプレイするプレイヤーが勇者、その敵役が侵略者という形を取っていたのだが、よもや俺達プレイヤーが世界を壊す侵略者という役回りに回ることになろうとは。 確かに、明確な終わりの無いゲーム程やり甲斐が無くつまらないものは無いだろう。 街で生産系の職に就き日々を安穏と暮らすことが目的のプレイヤーはともかくとして、大部分のプレイヤーーーフィールドや前線に出てモンスターと戦い先を目指すことに楽しみを見出すプレイヤーーーにとっては終わりが無いというものは恐らく物足りなく、ことによると虚しく感じるかもしれない。 「さて、私の目的はたった今達成せしめられた。 ここからいかにするかは諸君ら次第だ。 これまで通り街で安穏とした暮らしを送るもよし。 下界の開拓に勤しむもよし。 箱庭に赴き、自らを更に磨くもよし。 この世界の唯一絶対の秩序は『絶対自由』。 私達が諸君らの進むべき道に干渉することは無い。諸君らが考え、行動したことのみが正義だ。 それでは、諸君らが箱庭に訪れ、剣を交える日を楽しみにしている」
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