円冠の箱庭

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とはいえ、もしも彼が後々何処かのダンジョンで今日のような状態に陥った時に必ずしも自分が連れ添っていられるかはわからない。 そんな思いからダンジョンの中では一時的に厳しく接し、彼の苦手意識を少しでも埋めようと断腸の思いでキツめの言葉を浴びせたーーまあ、直後に罪悪感から思わず普段ならば考えられないような行動に出てしまったがーー。 どうやら自分は根本的に身内に対して怒ることに向いていないのかもしれない。 だが、結果としては彼は最後にはゾンビ犬など問題にならないほど不気味なキメラにも立ち向かってくれたし、結果オーライといったところだろう。 「ゴメンね……ライト君」 そうは頭でわかっていても、今更ながら彼に嫌な思いをさせてしまったことに対して罪悪感が鎌首をもたげてきて、思わず彼の頬を撫でながらそう呟いていた。 つくづく、自分に悪役は向いてない。そんな自嘲を内心でしながら、彼の隣に寄り添う。 そんなことをしている間にどうやら完全ログアウトまでもう間も無いらしく、ベッドに横たわる彼の姿は徐々に透けていく。 「ちょっと反則になっちゃうけど……許してね」 そう一人呟くと、ルナはそっと彼の額にかかる夜色の髪をかきあげ、意を決するように一度深呼吸をするとその額に軽い口づけを落とす。 最も、既に実体は消えかかっているので実際に唇が触れることは無かったが、今はそれで十分。 「いつか君を振り向かせてみせるから、覚悟しておいてね、ライト君」 彼のアバターが完全に姿を消すと、ルナはくすっと笑い、いつもよりも強い口調でそう呟き展開したウインドウのログアウトボタンを押し込んだ。
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