円冠の箱庭

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2050年6月13日 「ライト君!こっちこっち!」 「おー。うわ、人多いな……」 大型アップデートが敢行されると発表されてから早一週間、俺はアナザーワールドの首都、マザータウンの中心部に存在する白亜の塔、所謂≪転移塔≫の入り口付近の広場に来ていた。 本日は予定されているアップデート当日で、このゲームの運営が公表した通りサーバーを開き、プレイヤー達を迎え入れたままアップデートを敢行するということでそのセレモニーの会場となるこの白亜の塔の元には多くのプレイヤー達が足を運んでいる。 「まるでお祭り騒ぎだな……」 「あはは……アップデートの瞬間を自分の目で見るなんてそうそうない体験だからね、皆浮き足立ってるんだよ、きっと」 ガヤガヤと喧しく声を上げながら今回のアップデートの内容について議論したり、また酒瓶片手にアップデートの見物を決め込もうとしているプレイヤー達を見て思わずそう呟くと隣から苦笑成分を多分に含んだ言葉が返って来た。 ちなみに俺達はルナが確保しておいてくれたベンチに腰掛けアップデートの瞬間を大人しく待っているが、少し離れたところでは商魂逞しいプレイヤー達が様々な屋台を並べまさにお祭り騒ぎと言った様相を呈している。 鼻腔を擽るジャンクフードの匂いに何か買い食いしたいという欲求が生まれなくもないが、流石にルナを放っておくわけにもいかず鋼鉄の意志力でどうにか抑える。 「そういえば今日はレインは?」 「ああ、あいつは「折角フィールドからプレイヤーが消えてモンスター狩り放題になるんだからンなアップデートなんざにかまってられっかよ!」だとさ」 「そっか、レインらしいね」 ルナがここ一週間俺達がレベリングに付き合った悪友について聞いて来たので、昼間学校で聞いた回答をそのまま伝えると、ルナはくすくすと口に手を添えて控えめに笑う。
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