部屋

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「今やってる仕事。BLのドラマCD」 びーえる。 そ、それっていわゆる男と男がイチャイチャするやつだよね! 声優って、そんなこともするのか! てゆうか! 「ま、まさ、まさか」 しどろもどろの俺に、柊君が軽い口調で言う。 「センパイの怪我がリアルタイム過ぎてー、思い付きで練習台にしちゃった。ごめんね」 全然悪びれていないご様子。 空いた口が塞がらないぜ! まさかと思い立ち、台本をよく読んで見る。 すると………。 『センパイ、すごいエロい顔してる』 だの 『もっと声出してよ』 だの。 台詞まんまじゃねーか! 完全に練習台にされた(からかわれた)のに気づいて、俺は柊君を睨みつける。 柊君は俺の指に絆創膏を付けてくれていた。 それから、俺の睨みに気づき、小さく笑う。 「でも、センパイのエロい顔、気に入っちゃった」 「……え?」 これでよし、と、絆創膏を付け終わった俺の指をぽんぽんすると、柊君は立ち上がって言った。 「また練習付き合ってね、センパイ」 それから、リビングから出るために俺の後ろを回り込みながら、俺の耳元で囁くんだ。 「今度は俺、もっと頑張って、声出さずにはいられなくしてあげるから」 なっ…… 頑張るって、何を?! 俺は椅子に座ったまま、リビングから出て行く柊君を呆然と見つめる。 執拗に舐められた、怪我をした人差し指が、まだじんじんと熱をもって痺れていた。
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