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俺は下駄箱から自分の上履きを掴み取ると、床に叩きつけるように投げ、走りながらその中に足をねじ込んだ。ローファーは脱ぎ捨てたままだ。
目の前の階段を駆け上がる。応接室は2階の奥だ。
きっと奴はまだそこにいる。
放課後、誰もいなくなった廊下を走る。角を曲がった時、奥の応接室から人影が出てくるのが見えた。
やっぱり、あいつだ。忘れもしない、あの作ったような笑顔を浮かべた悪魔の顔。
俺の、叔父。
俺は奴の前まで走り込んで行くと、驚いたような表情を浮かべる奴の胸ぐらを思いっきり掴んで壁に押し付けた。
「てめぇ……」
胸ぐらをつかむ手に力がこもる。力を緩めるなんて、不可能だった。
「おや、隼人じゃないか。……久し振りだね」
奴が言った。胸ぐらを掴まれているにもかかわらず、俺の一番嫌いな笑顔を浮かべている。
「随分と大きくなったね。何年ぶりかな、君に会うのは」
「悠希に、なにした」
思い出話なんてどうでもいい。俺は奴を睨みつけた。
「悠希…あぁ、君の一番大切なお友達だったかな?何って、転校しないかと、少し話をしただけだよ」
俺は奥歯を思い切り噛み締める。怒りしか湧いて来ない。
「悠希は、お前の学校に関係ないだろ。なんで悠希なんだ。悠希はびっくりするぐらい普通で、純粋なんだぞ。あんなところに放り込まれたら、どうなる?!壊れるに決まってるだろ!」
つい大声になる。腕に力がこもり、奴を壁に更に押し付けた。
「てめぇ、何を言ったんだ。悠希が、素直に転校するなんて言うわけないだろ!お前が何か言ったんだろ。ふざけんなよてめぇ!」
俺の大切なものを、何回奪えば気が済むんだ!!
ふっ、と、奴が笑った。俺は眉をひそめる。その笑顔が張り付いた醜い顔を、今すぐぶっ壊したい衝動に駆られる。
「………隼人」
まとわりついてくるような声だ。俺は昔からこの声が大嫌いだった。
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