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え、な、なんだ?!
振り返ると、ちょうど食堂の入り口に人だかりが出来ていた。
その人だかりの中心には、眼鏡をかけた、黒髪の男の人。
「噂をすれば……」
優斗が低い声で言う。
しかし俺の目は、その黒髪の人に釘付けになっていた。
こんなに綺麗な男の人を、俺は今まで見たことがなかった。
サラサラの黒髪に、眼鏡の奥の切れ長の瞳がよく似合う。
その人は人ごみの中をゆっくりと歩いていく。
一つのテーブルで、ご飯を食べていた生徒が突如立ち上がった。緊張した面持ちで、黒髪の人に何か言うと、席をゆずった。
黒髪の人は、極上の笑顔でにこりと笑うと、その席をゆずった生徒の耳元で、何か呟いた。
キャアアア!
どこからともなく、悲鳴があがる。
そして俺が見守る中、耳元で囁かれた生徒は幸せそうな表情のまま、
失神した。
「え………」
「あれが、生徒会だ」
優斗の声に、ようやく現実に戻れたような感じがして、俺はホッとする。
それから、黒髪の人が座ったテーブルを見る。
そこには、黒髪の人を含め、3人が座っていた。
「あれが……」
「奥の茶髪が会計の五十嵐。あのちっさいのが書記の柳田。んで、あの黒髪眼鏡のいけすかない野郎が、生徒会長の氷室 蓮だ」
「なんか……凄いね」
カルチャーショック過ぎて、俺はそう言うしかない。
男が男に悲鳴を上げることももちろんショックだけど、それよりまず、囁きで人を失神させられる人間がいたなんて、びっくりだ。
「氷室蓮には、人の心が読めるらしいという変な噂があるから…気をつけろよ」
俺は生徒会長を見つめる。もしかして、新人類の中には超能力が使える人もいるっていうのは…この人のこと?
「……!」
その時、遠くの席に座っているはずの生徒会長が俺の方を振り返り、目が合ったような気がした。
俺は小さく息を飲む。
しかし、それは一瞬で、俺はすぐ、気のせいだと思い直した。
「そんなやつのことはもういいからさ、悠希。早く飯食えよ。俺、もう食べ終わったんだけど?」
「ご、ごめん、すぐ食べるね!」
優斗はもう機嫌を直したようで、俺の事を笑いながら見ている。
いくら、変わるためにここに来たとは言っても、あそこまでの人と関わることはないだろう。俺はそう思うと、食べかけのメンチカツにガブリとかぶりついた。
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