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ページを開けようとした時、ガラッと教室の扉が開いた。
思わず手が止まる。教室に入ってきた先生は、結城先生と同じぐらい身長の高い男の人だった。
ビシッと着こなしている灰色のスーツには、シワ一つない。ワックスで前髪が上げられているので、シワの寄った眉間と、鋭い目がはっきりと見える。
カツカツと靴音を鳴らして教壇についた先生は、ぐるっと教室を見回した。
その視線が、俺のところで止まる。
「おいそこ」
低い冷たい声に、俺は金縛りにあったかのように動けなくなった。
「どうして教科書を開いていない」
「す……すぃ………」
何か返事しようとするけれど、俺の口はパクパク開閉をするだけで、言葉にならない声が漏れるだけ。それだけ、その先生の視線は威圧的だった。
「俺のルールに従えない奴は、この授業にはいらない」
先生の言葉に、俺は愕然とする。教科書開いてなかっただけなのに………。
「せ、先生!」
隣から、声が上がった。
驚いて隣を見ると、優斗が立ち上がっていた。
「こいつ、昨日転校してきたばかりなんです。先生の授業のルールをまだ教えてやってなくて…すみません」
教室が一層、しん、と静まり返った。
皆、心配そうに先生と優斗を交互に見ている。
先生が、優斗をギロッと睨みつけた。
しばらく沈黙が続く。
このままでは、優斗がとばっちりを食らってしまう……。
何か言わなきゃ。
しかし、俺が何か言おうとする前に、先生が口を開いた。
「……今回だけは大目に見てやる。しっかりと俺のルールを伝えておけ。いいな」
「……はい」
「しかし、今日一限が英語の授業なのは知ってたはずだ。教えることはもちろん出来たはずだろう。2人とも、罰としてあとで職員室に来い。分かったな」
「は……い」
先生はそう言い終わると黒板の方に体を向けた。
優斗は、力が抜けたようにガタンと机に座る。
今は話しては行けない気がして、心の中で優斗に対して何度もごめんとありがとうを繰り返した。
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