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リョウ、という先生の授業は、異様な空気の中始まった。
最初はガクガクしてたけど、先生の板書は流れるような筆記体、発音は完璧で、
(意外にわかりやすい……?)
この空気すらなかったら、良い授業なのに。
「問3の4、ここの穴埋めは。白川」
突然当てられて、俺は焦って教科書とノートを見比べる。
昨日、練習問題は解いたはず。だから、答えられーーー。
そこで、俺は頭が真っ白になった。
(ど、どうしようーーー!!!)
そこの問いは、昨日一つだけ解けなかった問題だった。
教室はしん、として、俺が答えを言うのを待っている。
『殺されるぞお前……』
授業が始まる前の会話を思い出して、俺は震え上がった。
殺される!!
「………or」
!
突然、窓側からぼそりと声が聞こえてきた。
声がした方を見る。昨日会釈だけした隣の栗色の髪の人がいた。
前を向いていて、表情はわからないけれど、俺に答えを教えてくれたんだと分かった。
「………白川。答えろ」
「あ……or、で…す」
俺はしどろもどろになりながら答えた。心臓がばくばくして、今にも飛び出そうだ。
先生は教科書から目を離すと、俺を鋭い目で一瞥した。冷や汗がダラダラと出てくる。
「……そうだ」
先生はそう言うと、黒板に向き直り解説を始めた。
その途端俺の体は緊張の糸が切れたようにへなへなと力が抜ける。
よかった……助かった………。
横目でちらりと、答えを教えてくれた恩人を見やる。彼はただぼんやりと窓の外を見ていた。
後でお礼言わなきゃ……。
俺はそう思うと、シャーペンを持ち直し、黒板の文字をノートに写していった。
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