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保健室は、一階の、校庭に面した校舎の端にあるらしい。俺は『保健室』のプレートを見つけると、引き戸を開けて中に入った。
「すいませーん……」
中はしんとしていて静かだった。窓が空いているのか、ほんのり暖かい春の風が中に吹き込んで来て、ベッドの周りに吊るしてあるカーテンをはためかせている。
俺はおそるおそる中に入った。
保健室の先生を探したが、
「誰もいない………」
保健室は無人のようだった。
消毒をして、絆創膏だけもらおうかと思ってた俺は、1人でもできると判断してガーゼやらなにやら色々乗っている棚の上をガサゴソしだした。
「えーーっと消毒液……あ、あったあった」
刺し傷は消毒をしっかりしないと怖いって聞くから、俺は染みるのを我慢してしっかりと人差し指の傷に消毒液をかける。
それから小さめの絆創膏を取り出して、上手くガーゼのところに傷が当たるように貼った。
「これでよしっ、と」
俺は1人満足げに頷いて、保健室を去ろうとした。
その時。
ガララッと勢い良く引き戸が開く。
そこには、真っ赤な髪をした制服姿の人が、ゆらりと立っていた。
「!」
うなだれていて、表情は見えないけれど、保健室に来たと言うことは具合が悪いのだろう。
引き戸にもたれかかるようにして、立っているのがやっと、という感じだし、もしかして、結構重症?
「あ……あの、大丈夫ですか?」
俺はおそるおそる声を掛けながら、その人に近づく。返事がないのに心配してその人を覗き込んで、俺は、はっ、と息を飲んだ。
めちゃくちゃ怪我してる……!
口の端にはアザができ、切れているのか血もこびりついている。具合が悪そうに硬く閉じられた目の上にも、痛々しい擦り傷。よく見れば制服も土で汚れているようで、ところどころ擦り切れている箇所もある。
け、喧嘩?!
髪の色や制服の着方を見ても、あまり真面目な生徒ではなさそうだし、喧嘩をしてきた、というのがやけにしっくりくる。
不良??ヤンキー??
俺がどうしたらいいか分からなくてあたふたしていると、その人が突然目を開けた。
漆黒の、鋭い目。
俺を睨みつける。
「邪魔。どけよカス」
カ………!
あまりの暴言にびっくりして呆然としていると、ヤンキーさんは俺をさらに強く睨みつけ、俺の胸のあたりをドン、と押した。
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