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思わずよろける俺を一瞥することもなく、ヤンキーさんはふらふらと保健室の中に入り、3つあるベッドのうちの一つにドサッと腰を落とした。
「………っ」
身体中痛いんだろうか。顔を苦しそうにしかめている。
俺はそろそろとベッドに近づくと、勇気を出しておそるおそる言った。
「あ、あの、しょ、消毒とかっ、した方が……!」
「あ"?」
ヤンキーさんが、再び俺を睨みつけた。俺は蛇に睨まれた蛙のようにすくみ上がる。
その途端、ヤンキーさんからガッ、と手が伸びてきて、俺の制服のネクタイをぐぃ、と引っ張った。
「ぅ……わ!!」
身体がヤンキーさんに引き寄せられ、至近距離で目が合う。殺気のこもった目が、ギラリと光った。
「ジロジロ見てんじゃねーよ。犯すぞてめぇ」
おっ、おかっ……?!
俺は恐ろしさで気を失いそうになりながら、目をぎゅっと閉じ、とりあえずひたすら謝る。
「ご、ごめんなさい、すいません、本当にごめんなさ」
ドサッ
え?
突如、俺の肩に重さがかかった。驚いて目を開けると、
ヤンキーさんが、気を失って俺の肩に寄りかかっていた。
ひぃいいいい!!!
どうすれば良いのぉおおおお!!
今目を覚ましたら殺される。今目を覚ましたら殺される………。
恐怖のあまり、動けずにいる俺。
ーーそれから、数分が経過。
「……」
未だ、ヤンキーさんはうんともすんとも言わない。俺はおそるおそるヤンキーさんの肩を掴んで、俺の身体から引き剥がした。
ガクン、と首が垂れる。
……本当に気を失っているみたいだ……。
俺は、しっかりと支えながら、ゆっくりとヤンキーさんの身体をベッドに横たわらせた。
ヤンキーさんは、目を覚まさない。
ホッと一息ついて、俺は改めてヤンキーさんを見た。
身体中、至る所にアザや擦り傷がある。真っ赤な髪も、乱れているように感じる。
上履きを見ると、色は紺だった。……3年生だ。
しばらくぼーっとヤンキーさんを見ていたけど、俺ははっ、と思い出して立ち上がった。
「消毒……!」
気を失ってる間なら、やっても怒られないよね。
俺はそう自分に言い聞かせると、棚に戻って消毒液やガーゼの準備を始めた。
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