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「話というのはね、白川君」
海王さんは嘘くさい笑顔のまま、すこしこちらに身を乗り出した。
「君に、私の学校へ転校してもらいたいんだ」
「転………校」
一体どういうことだ?俺は全く理解出来ない。
「いきなり単刀直入に言って悪かったね、順を追って話そう」
海王さんはそう言って、ソファに身体を沈み込ませた。
「君は、新人類の存在を、もちろん知っているね?」
ーー現在。
「白川君」
もう一度呼ばれて、俺の思考はようやく回り始めた。
新人類。もちろん知っている。ここ何十年かで増えている、『突然変異』を持った人間のことだ。
彼らは、Y染色体に突然変異を持ち、ほとんどの場合何かしらに酷く優れた才能を発揮する。中には、超能力を持った者もいるという。
しかし、現人類である俺や隼人にとっては、全くもって遠い世界の話だった。
一体………
「さっき名刺を渡したと思うけど、私が理事長をつとめるその学校は、『新人類』のためだけの学校なんだ」
海王さんは、上機嫌に話を進める。
「その学校へ、転校してもらえないか、君にこうして話をしに来たんだ」
俺の頭の中は、はてなで一杯になった。
俺は新人類じゃない。なのにどうして、新人類のための学校に転校しなきゃ行けないんだ。
「実は今も、彼らのことについては研究段階でね」
俺の疑問を読み取ったかのように海王さんは続ける。
「新人類の彼らが、現人類とどのように接するか、データを取る必要がある。まずは試験的に、現人類の中で最も平均的な学生を起用することになったんだ」
海王さんは顔の前で手を組み、俺をまっすぐに見つめた。
「そして君が選ばれた」
俺は、言葉に詰まる。どうすればいいか、いまの段階で答えを見つけるのは不可能だった。
「本当に君は素晴らしい人材だよ。身長体重、成績、運動能力、家庭環境に至っても全て平均で平凡だ」
海王さんはそう言うと、にこやかな笑顔を浮かべた。
「転校、してくれるね。白川君」
口調は柔らかく、しかし威圧的な響き。
にこやかな笑顔が悪魔の微笑みに見えて、僕は目の前が真っ白になった。
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