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すっかり夕方になってしまった道を、校門まで急ぐ。校門近くで待っていた隼人が、俺に気づいて手を上げた。
「ありがとう、待っててくれて」
「いいって。んで、なんだった?話って」
俺達は帰り道を、一緒に歩き出す。小学校の頃からずっと一緒に歩いて来た帰り道。こんな毎日が、来年度から変わることになるなんて。
「転校の、お誘い」
俺は、なるべく平静を保ちながら答える。ごめん、隼人、俺は………。
「転校………?」
案の定、隼人は立ち止まった。わけがわからないというように、俺の顔を見つめている。
「どういうことだよ、転校って」
俺も、よくわかんないよ。
「それ、なんか意味あんのかよ」
「………」
そう、意味は…
意味は、あるんだ。
俺が、変わるために。
『君は、自分を変えたいと思わないのかい?』
担任を退出させ、2人で話した海王さんの言葉が蘇る。
『君の平凡さ、ここまで来るともはや呪的だ。これからも、こんな人生を送るのかい?恐ろしく平凡で、平均的で、……つまらない人生を』
俺は唇を噛みしめる。
分かっている。俺の人生は……つまらない。
前から、変わりたいと思っていた。せめて、何か一つだけでもいいから、自信を持てるものがあればいいのに。
でもどうやって?そう考える度に思い直す。
平凡な俺が、自分を変えることなんて、出来るのか?
海王さんの微笑みが、天使のようで悪魔のような微笑みが、俺の目に映る。
『暁学園においで。君はそこできっと変わる』
俺は………
俺は変わりたい。
たとえ、それが仕組まれた誘いだとしても。
俺は悪魔の顔を正面から見据えて、ただ一つ、頷いたんだ。
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