第1章

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 ステファンスの出身が、この国だった事で 故郷が焼け野原になった時も、まだ大学生だったが 別荘のある湖は、私達の家と反対側にあった。  そこに住んでいたステファンスは、 自分の住まいよりも、真っ先に私達の所へ来た。 「ヴァイオリンを守ってくれたアリーに感謝して 腹が空いているなら、俺と行こう。」  妹のアリアナをステファンスは、アリーと呼ぶ。 アリアナは、潰れた私達の実家を見つめながら 私のヴァイオリンだけを握り締めていた。  つまるところ。  襲撃にあった時、私は家を留守にしていたので 学校から戻ったアリアナは、随分とガレキになった 我が家を漁ったらしい。血塗れの手を覚えている。  無差別襲撃の知らせで、私が仕事から家に大急ぎに 戻った時、アリアナは血塗れの手で、私の手を握った。 「良かった。アニキの手が無事で。」  ****************  この国へ来てからは、奇妙な事ばかりだ。 馬4頭を操る戦車の巨大な車輪の音も 家や穀倉が焼ける匂いもしない。  ステファンスが居なかったら、 私は疲れた牢屋生活だったかもしれない。  もう生まれ育った国がどうなったのかわからない。  素晴らしい音楽が、自然を求めるように人工的に録音。 そう、録音されていたりする。 熱湯を入れて数分待つだけで、出来上がる簡易食品もある。  ステファンスに、これでは私のヴァイオリンは無用では? そのように訊いたが、ステファンスは軽々と言った。 「空が俺達を必要としているなんて、ありえない。 俺が空を欲しがってるんだ。簡単で自然な事だ。」 と、笑って続けた。 「但し、市民権を獲得するまでには信頼は必要だ。 まぁ、失うよりは難しいってだけ。」  事実、録音された音楽を購入出来るのは裕福な家庭で アリアナの持ち前のバイタリティに、信頼を寄せてくれた 食堂兼酒場の”CATBAR”のマスターは 今夜からすぐに弾いて貰えるか?と訊いてきた。 即答して、私はヴァイオリンを毎晩、弾いている。  ただ、あの日、アリアナが友人だと紹介してくれた 素晴らしいピアノパートナーに再会出来ない。  アリアナに訊いてもピアノのお嬢さんディルは、 裕福な家庭らしく、中々、夜に外出するのは難しいらしい。 もしも、もう一度でいいから彼女のピアノに合わせて  スコーン。  小さなボルトが頭に当たった。
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