第1章

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 太陽が真上に光る正午過ぎに、ベンチに座る。 ハードケースを開けたら、中が水で一杯だった。 目の錯覚かと思って、1度閉めてから 改めて開けてみたのだが、やはり水だけだ。  中身は何処へ消えたのだろう。 何故、ここまで持ち歩いてて零れなかったんだ。 水じゃないのか?  液体には違いないし、どう見ても普通の水だ。 匂いはしないし、触っても平気だろうか?  手を入れてみると、たちまち体ごと プールか海にでも飛び込みしたように ザブンと音がして、水の中に沈んで行く。  誰かに押された気がした。  僕は必死でもがいて、泳いで浮かび上がろうとする。 だが無意味だった、一方的にブロンズ像のように 何も付け足す言葉もなく、単純に沈んで行く。  息をしていないのに、苦しくも無い。 どんなに深く沈んで行っても変化がない。 泳ぐのを諦めて、沈むのに任せている。  底が無いのだろうか、もう上は見えないが 水以外に何もないので、声を出せるかと思ったが 口を開けるのだけは、何か怖い気がした。  どう考えても、これは夢だろう。 僕は泳ぎが苦手だから、嫌な夢だ。 目が覚めたらサッサと忘れてしまいたい。  何もしていないし、随分と経ったのに 目も覚めないし、底にも着かない。 けれども随分と疲れた気がする。  出来る事が無いから、目を閉じる。 もうすぐ眠ってしまう。 夢の中で沈み続けながら、眠るなんて。  もしも、このまま目覚めないで 水の外へ出られないで、底に着かないで 沈み続けて行くのだとすれば ここは、ここ以外のどこでも無いのに ボクはいったいドコへ。  ドコへも行かないのだろうか。 こことはドコなのだろう。 水の中がここ? でも、沈んで動いている。 それでも、同じ水の中にいて。  ゴトン。  思った以上に、深く眠っていたみたいだ。 酷い夢だ。 そう思って、起き上がろうとするが 起き上がれない。  目を開けると真っ暗だったが判る。 ここは水の底だ。 夢では無かったのか。 それならば、ここはドコだ。  底は何も無い。 凹凸も無い、人工的だ。 眠っている間に変わった事は 沈まなくなった事と、真っ暗になった事。  何も抵抗出来ないのも 水の中で苦しくないのも まだ夢じゃないかと疑っているのも 大きな違いは起きていない。  違う。  水の底に背中がぶつかった時 誰かに押された気がした感覚に似ていた。 やはり、ここはココじゃないんだ。
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