第1章

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 密室殺人という状況における 適切な判断と行動の考察の為の 事前調査報告書、ケースNo.15  よく語られる古い言葉なのだが。  つまりは名探偵や敏腕刑事がいるからこそ 殺人事件やら誘拐事件が起きてしまうだとか あまつさえ、それが密室や暗号のDMを生む とかいう奴がいるが、敢えて断言しよう。  作者がいるから事件は起きるものであるし 被害者が書かれるし、探偵だのもいるのだ。 密室殺人とは、作者が書くことで密室なのだ。  ある他に出口の無い、内側から鍵が 掛かっている扉の奥の倉庫で悲惨な 密室殺人事件が発生した。  被害者は格闘した形跡があり衣服は乱れ 体に数箇所の刺し傷があった。 明らかに他殺体であるのは一目瞭然であり 当然の如く、検死医も同じ結果を報告した。  現場には何故か殺傷するに充分な ナイフが【2つ】落ちていたが、それとて 凶器が複数であってもおかしくなどない。 犯人が用意周到だっただけに過ぎないので これらが凶器である事は疑いの余地は無い。  換気扇、排水溝、天井から床下に至るまで おかしな様子もないし、窓も無い。唯一の扉は 管理された完全な暗号式の電子ロックだった。  警察も警備会社に依頼して解除させたが、 警備会社の電子ロックの機密を漏らすような 人物はいなかったし、事件前後に警備会社で 怪しげな行動をする人物は、内部外部にも居らず 被害者と個人的な結びつきを持つ者も皆無だった。  そのうえで、内側からの通常の鍵も掛かっていた。 捻るタイプの簡易的な物ではなく、外側から掛ける 通常の鍵である。この倉庫は外からも内側からも 同じ鍵によって容易には開かないのだ。  被害者のポケットに、それと適合する鍵が発見され 証拠品として押収されたが、どのように考えても これこそが、完全な密室殺人だと警察には思えた。  部屋は窓だけではなく電話も無いし外界との 連絡手段は1つもない。机や椅子など調度品もない。 荷物が入っていない空っぽの倉庫であったわけだ。 被害者の自宅やオフィスから近くも無い。  さて。  犯人はどうのようにして、奇妙であり得ない筈の この密室トリックを作り出したのだろうか? 捜査員、ベテランの敏腕刑事、そして我国の誇る 数々の難事件を暴いてきた、最高の天才名探偵にも 不可解という気持ちが、暗雲の如く立ち込めた。  この倉庫の所有者は共同名義になっていて
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