第1章

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脇へそれる為の目印なのか、大きな白い切り出しの石が 曲がり道を示して、まるで階段の踊り場のようである。 この石の足場にだけ手すりが付いており、登山可能である事を 感じさせて登ってきた。  だが、急に前に進めない。  何も無いのだが、その一段分程、下にある白い踊り場に 下りられない。高さなどほとんど無いし、 木の枝が邪魔している訳でもない。背中の荷物が何か 引っ掛かっているのか確認してみたが、それもない。  でも、前には進めない。  透明なのにぶつかる感触があるとか そういう感じもしない。行けないから行けない。 それ以外に何も手掛かりがない。 思い切って、飛んで下りようかと思った。 雨で滑るかもしれないが、手すりに手が届けば大丈夫だろう。 「おおーい!」  後ろから声がして、飛ぼうと身構えた私は振り向いて タイミングを逃してしまった。 初老の男性が、こちらを呼んでいる。 「危ねえって!」  今一度、振り向いて自分が進もうとした方を視た。 何も無かった。崖になって崩れていた。 登ってくる時の白い踊り場は、その先にあった。 間一髪だった。冷や汗がでた。だが奇妙だ。  ならば、私はどうやって登ってきたのだろう?  私は引き返して、山小屋の主人。 つまり先ほど、ある意味では命の恩人とも言える 山林業に使う為に小屋へ避難させて貰った。  熱い風呂は諦めたが、山小屋で夕餉の支度をしていた 主人は見慣れない軽装な、私が崖に向って立ちすくんでいるので 声をかけてくれたそうだ。  お茶を頂き、囲炉裏で体を温めていると山菜と芋と山鳥の 鍋を振舞ってくれた。あまりの旨さと主人の勧めでついつい 調子にのって何杯もおかわりを、ねだってしまった。 だが、主人は気さくながら陽気な人物で、話好きだった。  この芋は小屋の裏で作っていて、いざという時 何日も山に閉じ込められる時などは、重宝するそうだ。  一通り腹が膨れて、体も充分に温まると眠気が襲ってきた。 昼間の疲れが一気にでたのか、少し風邪を引いたかもしれない。 「今夜は、もう危険だ。明日送ってあげるから泊まっていきんさ。」  そういうと主人は地酒を出して、風邪にならない内に 中から少しあっためて寝るといいと言われ、頂戴した。 すると逆に、それが濃く甘い感じで美味しい。 ついつい、眠気を忘れて話こんでしまった。  この小屋は登山道に沿って作らないのですか?
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