第1章

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「実際、小屋には枯れ枝、葉が山になってるで 峠越える牛や馬の餌になっては困るしなぁ。」  と快活に笑った。しかし、来たときには気付かなかったが こうして見ると中々どうして、立派な出来栄えだった。 「まぁ、山のモンは皆で使うから、ほら、 使ってないのは小屋でも何でも悪くなる。」  その言葉が気になって、私は少し言い難そうに 先ほどの体験を話した。  途中で急に進めなくなった事と 主人に呼ばれるまで、明らかにポッカリ空いた 崖に全く気付かなかった事。 いくらなんでも、それが確認出来ないほど暗くなかったのに。  すると初老の主人は首を捻って「なんだなぁ。」と言った。  この山の天狗の伝承は聞いてます。 山なのに天狗磐と、いつ頃から呼ばれているのか知りたくて。 曇り始めには、樹の上を飛び交うムササビも何匹か見ました。 確か、野衾の話もあると聞いています。 「すると、わしゃ百々爺かな。」とカラカラ笑った。  いえ、そんな失礼な意味では。 「いやいや、わからんぞ。山はそれだけで怖いもんだし 実際、あんたも命を落としかけたからの。」  それを助けてくださったのも、貴方ですから。 「まぁ、野衾だとか、塗壁だとか前が見えなくなるとかは あるかもしれんけんど、見えるのに見えんとは判らんなぁ。」  だとすれば、何でしょうか? 「天狗さんが引いてくれたんかもなぁ。 あんた、この山の奥の天狗さん、探して来なさった?」  はい。出来れば取材してみたかったのですが。 「んじゃあ、やめたほうがええかもしれん。」  何故でしょうか? 「あんた、救われたからな。この先には磐しかない。 何かあっても二度はない。山の方便じゃから。 山は冬は入れんが、この天狗磐は別っこでなぁ。 小さいから冬でも入れないこと無ぇが、危ねぇ。」  ……無いですか。 「夏の間はな、天狗さんもチョイチョイは イタズラに風を吹かっしゃるもんじゃ。 それで、ワシら色々、山から貰おうてるがな。  冬になると、何もない。雪しかないんじゃな。 師走頃に、山に入った若い衆があった事がある。 山に似合わない、都会にしかおらんような。 なんだら議員先生か、大学教授のような身なりでな。 山高帽を被って、黒い一張羅で磐に立つのを見たと。  すぐさま若い衆は、考えも何もなく思わず ひれ伏して、山に入った事を詫びた。するとな。 「冬は何も御座いません。お引取り下さい。
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