第1章

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特に12月は固く禁じます。君達を生かして 戻すのは、この決め事を、皆に伝える為だと 胆に命じておくことです。よいですかな?」  若い衆は驚いた。紳士風な立派な身なりの人が よく見れば、宙に少し浮いちょったらしい。 飛んで帰ってな。随分、噂になったもんでな。  冬の山からは小石1つ取っちゃならねえし、 写真1枚を撮ってもイカン。 天狗さんが本気で、怒ればこんな山なんぞ 海の彼方にピューじゃからな。」  その西洋礼服を着て山高帽を被った紳士が 冬の天狗なのでしょうか? 「知らんなぁ。あんたが天狗さんをどんな姿で 考えても、天狗さんには関係無ぇっし。 そんなハイカラな天狗さんはおらんよ。 でも、天狗さんには礼儀正しくせにゃいかん。 紳士ちゅうたら格好で、決めるものでなか。」  黙礼の義でしょうか。 「いんや、あれは北風の……。」  老主人が言い淀んだ部分が、気になったが訊きそびれ それを察したの火を強くした、小屋の中に揺れる影を 印象的に感じた。風の力、火の熱、林の男、山の礼。 「ん。だから呑んで暖まれば、よう眠れるじゃ。 朝になってワシと山を下りるか、山小屋事なぁ。」  何か眠気が一気に。地酒が濃厚で。 「山小屋事、消えて無くなって、磐屋で目が覚めれば まぁ、まだマシじゃろう。」と、カラカラと笑った。  私は一気に眠りに落ちてしまった。 峠を越える牛や馬の夢をみた。  馬がたちまち山より大きくなって、山道を崩してしまう。 私は磐屋に隠れるが、牛が人間のように立ち上がって 探して回ってくる。その手綱を持つのは、山小屋の老人だ。  磐屋の中で鍋が煮えている。  私は。  目が覚めたら、雨は止んでいて快晴だった。 表で枝を束に縛っている、老主人に挨拶をすると 「裏に水を引いてあるのから、顔を洗ってきんさい」 とカラカラ笑った。  冷たい水でサッパリすると、私は山の奥へ行くことを諦めて 朝餉を頂いて老主人に案内されて、登山道へ抜ける楽な道を それでも結構な勾配だが。安心して進んだ。 踊り場のような石の道とは違う道だった。  ふと、振り返る。 山小屋の火を消していなかった気がしたからだ。 ところが煙の如く、山小屋の跡形も見えなくなっていった。 「もう、登山道じゃから。」  そう言われて、我に帰って老主人の方を見たが もうそこには誰も居なかった。 頭の上の方で、何かがバリバリと動くような音が鳴った。
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