第1章

2/4
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 昨日の夕暮れより、今日の夕暮れを美しいと思う。 全ての匂いに色彩を当てはめる毎日。  シャツよりも、湿気こそが肌を縛りつける。 丸く楕円形のような味がする食事。 そこに誰かがいる気がしても、一心不乱に続く。  但し、このピアノは鳴らない。  汽車を降りて僕が駅の改札を出て、伸びる長い階段から 最初に見たのは街の最下層から両側にひしめく建造物と増築物。  もしこの階段を昇り始めたら、突然に両側の 建物群が、階段にいる全ての人を押し潰すように 迫ってくるような圧迫感と、混乱するような構造。  むき出しの配管から何か液体が滴っている。 呼吸をして、地下から養分を吸いとって そびえ立っているようにも見える。  それでも天高く、建造物に挟まれて視界は狭いけれど 夕暮れの赤みを帯びた細い空が見える。  空とは世界で一番大きいと思っていたのだけど。  階段を昇りながら、あらゆる建造物に積み木のように 商店があり、作業場があり、事務所があり、宿泊施設もある。 それらを隙間を出たり入ったりする人達がいる。 荷物を運ぶ人、汗をかきながら配管を直す人、煮売りをする人。  隙間を覗きみれば果てしなく奥まで続く。 時折、隙間に光があるが誰かが動いているのか 点滅するような光なのか、途切れ途切れになっている。  階段を昇っていくと、相変わらず圧迫感はあるが 次第に小奇麗な風景になった。恐らく、居住区だと思う。 夕食の支度だろうか、良い匂いがする。 子供達がカーテンの影絵になって、走り回るのも見えた。  階段を一番上まで昇ると、すでに薄暗くなっていた。 黄昏時とも言うのだそうだが、階段の頂上は公園になっている。  そこに人は誰も居ない。  ここまで来て、やはり空は大きいのだと確認できた。 昇ってきた階段を見下ろす。 最早、駅など真っ暗で見えない。  この新参者を迎えてくれる街だろうか。 それは僕の仕事次第によりけりだろう。 ようやく夜になり、僕の眼が変わる。  前の街では、居場所を失ってしまった。 もう、あんな失態はしない。 油断は何もかも奪いさってしまう。  素早く、身構える。  公園に夜しか来ない奴らがやってくる。 彼らと打ち解けあおう等とは思っていない。 僕は決して大きくはないが、前の街での仕切りは 全てこなしていた。顔役であったのだ。  この辺に関して言えば、油断はしないが相手にならない。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!