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「うそ、ごめん。そんなこと、いくらお姉ちゃんだからって頼めないよね。ごめんなさい……」
「いいわ」
いちじく、いちかの頭上に掌を掲げ、それが徐々にオレンジの光を帯びてくる。
「あんたの死にたいって感情を消してあげるわ。二度とその子の前で死にたいなんて言えなくなるようにね」
※
庭の手入れをしている柚子。
五歳のいちじくが背後から声をかける。
「おばあちゃん、見て見て。アタシの手、蛍みたいでしょ?」
いちじくの掌がオレンジ色にぼんやり光っている。
柚子は、はっとしてその手を自分の手で抑え込む。
「いちじく、ダメじゃ……。この力は絶対に使ってはダメじゃ……」
※
屋上。
夕木、陰から飛び出そうとして。
「じゃあ、いちかは代わりに、お姉ちゃんの、その能力を使いたいって気持ちを消してあげる」
いちかもいちじく同様、掌を頭上に。
オレンジの光が掌から発せられる。
「!?」
「お姉ちゃんだけじゃないのよっ!」
いちか、手をいちじくに振り下ろすが、
いちじくは咄嗟にそれを避ける。
驚いて動けない夕木。
「簡単に騙されちゃって、バカじゃないの! いい? いちかたちが幸せになれる方法はひとつだけ。能力を使わないことなの。お姉ちゃんはこの力で本当に誰かを救えるなんてまだ思ってたんだね?」
「……」
「お母さんのことで懲りたと思ってたけど。でも、よかった、取り返しのつかなくなる前に気付いて」
いちか、いちじくの腹に思いきり蹴りを入れる。
後ろに倒れるいちじく。そこに慌てて駆け寄る夕木。
「真白葉さん、大丈夫!?」
「あんた、後つけるのが板についてきたんじゃない?
今回は気付かなかったわ」
いちじくは、夕木の手を借りずに立ち上がった。
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