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虚ろな目のかりんがベッドにいる。
いちじくは、床に座って泣いてるように膝を抱えている。
病院の入り口では、夕木が待っていた。
いちじく、一瞬驚くが、そのまま立ち去ろうとする。
夕木は、缶コーヒーを差し出した。
「アタシ、コーヒー嫌いなのよ」
「じゃあ僕が二本飲むからその間だけ」
ため息を漏らすいちじく。
「怖いとか思わない?」
「何が?」
「……」
「思わないよ」
「アタシは怖い」
「……真白葉さん」
「妹が言ってたことは全部正しいのよ。こんな力、使わないほうがいい」
「じゃあ、使わないでいいよ」
「だったらどうしてこんな力があるのよ」
「真白葉さん……」
「アタシは何のために……」
※
真白葉家。
家中の食器を床にまき散らして喚くかりん。
破片が飛び散り、流血も。
10歳のいちじくがそれを見て泣いている。
「ママ、ママ!」
かりん、いちじくの肩を両手で掴む。
「どうかしてるんだわ! どうかしてる。悲しくないのよ。全然悲しくないの。あの子が死んだのに」
───いちじく、涙と震えが止まらない。
※
病院入り口。
「あんた、アタシのこと好きなんでしょ?」
「……うん」
「だったらお願い。二度とアタシに近付かないで。好きな人からのお願いだったら聞けるでしょ」
「それは……」
「迷惑なのよ」
「……どうしても、無理なのかな」
「あんたも壊してやろうか? 死ぬより辛い苦しみを味わってみる?」
いちじく、掌を前に。
それが光を帯びる。
「僕には、消してほしい憎しみなんて」
「消せるのは憎しみだけじゃない。悲しみ、苦しみ、後悔、喜びだって、選びたい放題。どんな人でも、どんな感情でも消すことができる。跡形もなく消え失せて、もう二度と元には戻せない」
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