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片田舎の高校。
2年A組の教室。
夏、昼下がりの授業中。
幌芝夕木が、ぼんやりと斜め前の席を見ている。
目線の先には真白葉いちじく。
いちじくは、さらさらのロングヘアを風に靡かせながら授業に集中している。
机に立てかけられたピンク色の派手な松葉杖。
いちじくの左足には包帯。
夕木は授業に集中などせず、こんなことを考えている。
「何か特別なことが起こらないかなって、大して特別じゃないことを考えてみる。別に宇宙人が攻めてきて日常をぶっ壊して欲しいとか、そういうのを期待してるんじゃなくて、僕が欲しいのは……」
いちじく、ふいに振り返って笑顔。
「そう、女神様の笑顔」
夕木、笑みを返すが、すぐに妄想は終わる。
元の授業風景。
いちじくは真剣に授業を受けている。
「もちろん現実には、宇宙人も女神様も現れたりしない」
黒板とノートを往復するいちじくの視線。
夕木はため息を漏らした。
「斜め前の女神、真白葉いちじく。例えばもしも、もしもだよ、僕が彼女の笑顔を独占するなんてことができちゃったなら、消極的で草食系で成績は中の中、スポーツ万能なんてお世辞にも言えない、趣味
はアニメとかでインドアだし、身長も低いしこれといって特技とか自慢できることないし、字が下手だし歌も下手だし、うーん、あと何だろ、とにかくそんな僕だって、ガラにもなく歓喜の叫び声を出しちゃうかも知れないって話。彼女と仲よくなれたらさ」
「キャー!」
「そう、そんな感じで」
生徒たちが窓に群がった。
窓から見下ろしたグラウンド。
グラウンドにはナイフを持った三上友哉と
ナイフの刃先を向けられている田向井健二。
二人を見て腰を抜かしている女子生徒。
グラウンドに集中する生徒たち。
ふいに、反対側を見る夕木。
「そのとき、僕は見逃さなかった。たった一人だけ真逆の方向に飛び出して行った、女神様の存在を」
カツン、と床を鳴らした松葉杖。
いちじくは、華麗な杖捌きで教室を飛び出した。
生徒たちは、それに気付いていない。
振り向いた夕木の目線だけがいちじくを捉えていた。
夕木は、いちじくの後を追って教室を飛び出した。
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