1

4/10
前へ
/23ページ
次へ
グラウンドが見えるベンチで、真白葉いちかが座って本を読んでいる。 本の隙間から喧騒の様子を見ている。 いちじくが右手をそっと、友哉の頭上にかざし始める。 その手はぼんやりと薄いオレンジの光に包まれる。 いちか、驚いて本を落とす。 「感謝しなさいよ。こんなサービス、滅多にないんだから」 オレンジの光が明るさを増す。 「あなたがこれからどんな将来を生きてゆくのかアタシは知らない。 興味もない。 でも、あげる。 アタシの身体。だからちょうだい、あなたの心……」 ドンッ、と、いちじくが突き飛ばされた。  帰り支度を整えるいちじく。 自席でチラチラとその様子を窺う夕木。 いちじくは鞄を持ち教室を出る。 その後を追う夕木。 早足で帰路につくいちじくと、その後を追う夕木。 夕木は、意を決して、いちじくに駆け寄った、 「あ、あの……。真白葉さん」 いちじく、気付かない振りで歩みを止めない。 「真白葉、さん」 「何?」 「え? あ、あの……」 「急いでるんだけど」 「さ、さっきは怪我なくてよかった……」 「だから?」 「え? あ、いや」 「怪我はしたわ。あんたに突き飛ばされたときにお尻を打った」 「ご、ごめん。あんな場面に遭遇したの初めてで、つい……。 ナイフが、その、危ないと思ったんだ。 ア、アザとかなってない?」 「知らないわよ。何? 見たいの?変態」 「そ、そういう意味じゃ」 「大怪我したのはあの先輩」 「え?」 「憎しみは消せなかった。心の傷がより深くなった」 「どういうこと?」 「最後に役に立つことしたかったんだけどね」 「わ、わかんないよ、何が、何をしようとしたんだよ」 「殺そうとしたの」
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加