1

6/10
前へ
/23ページ
次へ
停車中のバスに乗り込むいちじく。 「告白か。……バカみたい……」 いちじくがバスの外を覗くと、夕木はまだ彼女を見ていた。 いちじくは病室で花瓶の水を変えていた。 病床には真白葉かりん。 うつろな目をして、いちじくの行動に反応しない。 「いい匂い」 花瓶を置き、冷蔵庫を開ける。 「リンゴ、剥くね」 いちじくは、持参のナイフでリンゴの皮を剥き始めた。 「お母さん、今日ね、アタシ、クラスの男子に告白されちゃった。 ふふ、凄いでしょ」 剥きかけのリンゴを置く。 ナイフを自分の手首に当てる。 「お母さん、アタシ、もういいかな?」 ※ 小さな棺に突っ伏して泣き喚くかりん。   その様子を覗き見る十歳のいちじく。 真白葉柊の遺影。 ※ 病室に看護師が入ってくる。 いちじくはハッとしてナイフを落とした。 「あら、いちじくちゃん。ゴメンね、  お話中だった?」 「あ、いえ。今日は、もう遅いんで帰ります。 じゃあね、お母さん、リンゴ、置いとくからね」 いちじく、手を振るが、かりんは反応しない。 いちじくは、さみしそうに病室を後にした。 真白葉家の玄関先で、いちかが待っている。 「お姉ちゃん、電話、出てくれないね」 「何よ、急に」 いちじくは、オフにしていた携帯を取り出して 電源を入れる。 「また、お母さん?」 「そうよ」 「いちか、見てたんだよ、今日学校で。 お姉ちゃん、またあの力」 「見てたんだ」 「わかってるの? あれ、感情消すだけじゃないんだよ? 引き換えに……」 松葉杖と足を見るいちか。 「アタシが一番知ってるの。力のないあんたには関係ない」 「お姉ちゃん!」 「お父さん、再婚するらしいじゃん。  フェイスブックで自慢してた」 「お姉ちゃん、そういうの見るんだ」 「お父さんに、よろしく言っといて。  帰り、暗いから気をつけなさいよ」
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加