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停車中のバスに乗り込むいちじく。
「告白か。……バカみたい……」
いちじくがバスの外を覗くと、夕木はまだ彼女を見ていた。
いちじくは病室で花瓶の水を変えていた。
病床には真白葉かりん。
うつろな目をして、いちじくの行動に反応しない。
「いい匂い」
花瓶を置き、冷蔵庫を開ける。
「リンゴ、剥くね」
いちじくは、持参のナイフでリンゴの皮を剥き始めた。
「お母さん、今日ね、アタシ、クラスの男子に告白されちゃった。
ふふ、凄いでしょ」
剥きかけのリンゴを置く。
ナイフを自分の手首に当てる。
「お母さん、アタシ、もういいかな?」
※
小さな棺に突っ伏して泣き喚くかりん。
その様子を覗き見る十歳のいちじく。
真白葉柊の遺影。
※
病室に看護師が入ってくる。
いちじくはハッとしてナイフを落とした。
「あら、いちじくちゃん。ゴメンね、
お話中だった?」
「あ、いえ。今日は、もう遅いんで帰ります。
じゃあね、お母さん、リンゴ、置いとくからね」
いちじく、手を振るが、かりんは反応しない。
いちじくは、さみしそうに病室を後にした。
真白葉家の玄関先で、いちかが待っている。
「お姉ちゃん、電話、出てくれないね」
「何よ、急に」
いちじくは、オフにしていた携帯を取り出して
電源を入れる。
「また、お母さん?」
「そうよ」
「いちか、見てたんだよ、今日学校で。
お姉ちゃん、またあの力」
「見てたんだ」
「わかってるの? あれ、感情消すだけじゃないんだよ? 引き換えに……」
松葉杖と足を見るいちか。
「アタシが一番知ってるの。力のないあんたには関係ない」
「お姉ちゃん!」
「お父さん、再婚するらしいじゃん。
フェイスブックで自慢してた」
「お姉ちゃん、そういうの見るんだ」
「お父さんに、よろしく言っといて。
帰り、暗いから気をつけなさいよ」
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