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昇る。降りる。昇る。降りる。昇る。降りる。昇る。降りる。
俺達は星明かりみたいなもんだ。
青白く瞬いても、太陽で消されちまう。
冬は長くて、夏は短いって思ってる。
冬のイベントは用意周到で、夏のイベントは勢い任せ。
冬の思い出は寒く冷たい事ばかり、夏の思い出は美化ばかり。
人それぞれの季節と向き合い方がある。
冬が好きじゃない、夏が好きじゃない。
季節も昼間に出ている星明かりだ。
寒いか暑いか、雪が積もるか蝉が煩いか。
風邪にはお気をつけて。夏風邪はこじらせないで。
身近な気掛かりで消されちまう。
街にいれば尚更だし、長い階段を昇り降りしてると
視力が落ちるような気がしてくる。
この街の階段を昇りきると、猫が多く寝ている公園がある。
公園といっても管理小屋があるだけで、ただの広場だ。
そこから街の向こう側が、どうなってるのか眺めるが
霞んでみえない。青空と入道雲だけは見えるのだが。
変わらないと思ったが、ボロの管理小屋の屋根に登って
更に駅の線路を追う様に、遠くを見た。
山の影のような気がした。
思わず、立ち上がった時に屋根を踏み抜いてしまった。
大学へ進学せずに、棟梁の弟子になった高校時代の
友人に来て貰って屋根を直して貰った。
ついでだと言って、不安定な部分やらも修繕し始めた。
誰かが怪我しない為とか。この街の奴は、みんなこうだ。
手を休めずに友人が訊いた。
「フデジー。ここ空き小屋だよなぁ?」
筆がニつでフデジ。俺の名前だ。
「さぁな。ノラ猫でも住んでるんじゃないか。」
実は最近、ここに居ついてるガキがいる。
そんなのは、ノラ猫と対して変わらない。
人それぞれの捉え方と向き合い方がある。
気付いたからって、警察にも届けない。
警察こそ、知ってて咎めないのかもしれない。
この街の奴は、みんなこうだ。
干渉しない心遣いのようでもあり
エリート意識の増長叩きかもしれない。
猫の社会の方が厳しいとも思えるが
野良猫は飼い猫を語らない。
飼い猫はノラ猫と話さない。
そもそも猫は喋らん。
山の影を見たい。
そう思ったから、俺は隣町まで出かける事にした。
この長い階段の街へやってくる人は多いけれど
駅から旅立つ人は、とても少ない。
理由は簡単で、この街の階段下にある駅に
やってくる汽車は一方通行だから。
もちろん反対側のホームはあるし、
逆方向へ向う汽車もみかける。
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