第1章

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 但し、駅にはホーム反対側へ行く手段が全く無い。 踏み切りもない。つまり線路が事実上の国境の壁のようだ。  駅を挟んで同じ街なのに、向こう側は向こう側で 別な暮らしをしている。こちらと交流はない。 「あちら側」にも長い階段があるのかは解らない。  知りたければ。  無断で線路を越えるしかないが、常に見張りが立っている。 これみよがしに無数に設置された信号で、 【シグナル】と呼ばれている。  いままでも何度か、駅の反対側へ行こうとした者がいる。 そして必ずシグナルに発見され、捕縛される。 1度でも線路を跨ごうとするならば、全ての家財や仕事と 引き換えに切符を渡される。  その時だけ、全く普段は入ってこない 珍しい、青色の汽車が来る。 一般の乗客は乗ることが出来ない。 行き先も判らない。 隣町ではないと噂されている。 つまりは何も解らないという意味だ。  一般の乗客として、こちら側の汽車に乗ると 隣町へ行く事になっている。 この街と駅では、大概そういう約束になっている。  そして誰も戻ってこない。  自然の摂理に逆らう気持ち。 あって当然なんだと思える気がする、思える事が自然だと。 のんのんと、この街で抵抗する方法を考えていても 冬は寒く、夏は暑い。 だからこそ、誰だって寒さ暑さを凌いでいる。 逆らって当然なんだ、自然じゃないか。 太陽や雨に抵抗し、日傘や雨傘があるように。  進化も文明も自然の中の些細な現象だったら あの汽車に逆らいたくなる。 自然にそう思った。考える事も行動も自然だ。  うたかたの。とかじゃなくて、あらんかぎり。 隣町に何があるのかを見て、とにかくこの街へ戻る。 逃げるわけじゃないから、戻ってくる。絶対条件だ。 俺はとにかく自転車をこいで、あの山影を見たい。  ほとんど階段しかないこの街では、 あまり役に立たない自転車に、必要なものを乗せる。  線路沿いに行こう。踏み切り位は、あるかもしれない。 「あちら側」との接点があれば、 それは汽車に乗って隣町で行く奴には、 触ることも出来ないだろう。 一方通行の車窓から見でも、興味を失くして草臥れて。  もちろん踏み切りも高架線もトンネルも無くても 「こちら側」の隣町へ、道を行けばいい。 こんな事でも脱出パフォーマンスだと 自己を満足させて、言い張れるなら。 **********************
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