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俺が住んでいる階段の街は、名前がない。
正しくは、あるにはある。駅に駅名が書いてある。
「階段」
それだけだ。酷い位にそのままだ。
だから誰も何も気にしていない。
身勝手に鬱屈した気持ちなんて持て余して
暇があるのは、だらしない学生の俺くらいだ。
この街の中央に巨大な階段があって、隙間を縫うように
奥へ横道へ潜り込むような街だ。
実際、駅に近い繁華街はあまり清潔じゃない。
しかし活気は抜群だ。
この街では、超分業が絶対になっている。
一括で素材から完成品まで請け負う人は少ない。
大企業的な商売が、成り立たない街なのだ。
その代わり、その分野においては最高の職人ばかりだ。
八百屋は野菜のみしか扱わない、果物は果物屋のみだ。
この辺は普通の商店街だ。乾物屋、金物屋。美容院。
化粧品屋、薬局、歯医者、駅員、旅館、酒屋。
魚屋も魚のみだったりして、貝は貝屋が別にある。
だが他所から、この街へ来た人が違和感を持つのは
配達屋は、何を配達するかで専門が決まっている。
水道菅が水漏れすれば、水道菅専門の配送屋がいる。
街中で使う全てのネジ、ボルトとナットを作る人。
ネジ、ボルトとナットを管理し配達する人。
それらを使う職人。
別に配送や流通に限った細分業じゃない。
常にカンナしか、かけない棟梁もいる。
自転車は売らないが、パンクの修理はする人。
筆は売ってるが、墨十や絵の具は売ってない店。
ラーメン屋とチャーハン屋が並んでいる。
隙間から隙間へ縦横無尽に走る、増築と迷路のような店の数。
それらを案内する地図屋もいるし、肉屋とコロッケ屋も別。
だから買い物の迷子だけを専門で見つける探偵もいる。
各店の戸締りを確認して廻るという、確認屋もある。
また配送が行き過ぎな程充実してるので、
注文も取りも充実しているし、ついで頼みで
全く無関係な、仕事への取次ぎもしてくれる。
学校へ俺が行ってる時間でも、婆ちゃんが
階段の昇り降りで苦労しなくて楽だと言っていた。
この街には電話が無いのだ。携帯電話もない。
だから伝言と手紙を中心に根を這っている。
伝書鳩屋までいるくらいだ。
誰もが平等に専門のエリートであろうとする為に、
互いを頼りあって、平坦に見える気がする。
この街の人は嫌いじゃない。むしろ好きなのに。
たぶん、それは階段のせいかもしれない。
一体、この長い階段を作った奴は誰だ。
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