0人が本棚に入れています
本棚に追加
親兄弟は居らず、施設から脱出して旅館の手伝いをし、
階段の一番上にある公園の、あのボロ小屋に住んでる。
別に彼女と話す理由なんか無かったが、
最初に唐突に変な事を言われた。
「アンタんちの曲がった尻尾猫ね、汽車でこの街に来たよ。」
「なんで、そんな事が判るんだ?」
「見てたから。」
「見たって、駅から出てくるところをか?」
「そう。」
「なんで、俺んちの(正しくは婆ちゃんの。)猫だって判るんだ?
この街は猫が随分と多いじゃないか。区別できるのか?」
「うちのシロがそう言ってたから。」
それだけ言うと、さっさと戻ろうとした。
休憩時間を過ぎたのかもしれない。
が、急に振り返って莢は言った。
「だから大丈夫。帰ってこれる。」
どういう事だろう?
莢の言葉で気付いた事があった。
この街に16年前に来た時から、猫だらけだった。
ただ、白い猫だけはいない。一度も見た事が無い。
「シロ?」
解らないまま、線路沿いに自転車を走らせた。
予想以上に、リュックが重くてバランスが難しい。
少し、訓練しておけばよかった。
仕方が無いので、進みながら慣れて行こう。
山道でもないのだし、急ぐわけでもない。
この街の長い階段は2箇所ある。
アナログ時計をイメージして、数字を方角だと見立てると
6時の辺りに駅があるのだが、7時・5時と階段は、
左周り、右回りに左右対称カーブ状に伸びる。
両方の階段は12時の場所にある大きな公園広場で繋がる。
俺は5時の階段を無視して、線路沿いの道を進む。
すぐに店も住宅も消える。誰も住んでいないのだ。
通行する人もいないが、道だけは舗装されていた。
何か曖昧だ。違う「あやふや」だ。
誰も出られない街ではないんだ。
誰も出ないだけなんだ。
よく見れば、道はずっと続く。
遠くには山影が見えるし、入道雲もある。
あの山影までいけるのだろうか。
但し、線路だけは、どこまで行っても
踏み切りはなく、トンネルも陸橋もない。
シグナルだけ、確実に一定間隔で設置されている。
監視されている気持ちになってくる。
階段に居る時は、特に気にしなかった。
外へでたとたんに、視られている気が。
外へでる?ここはいつのまにか霧の中だ。
これか、頂上公園から霞んで、あやふやに見えたのは。
左右対称が大雑把に、巡らされてる。
線路を逆方向へ進んでも、あやふやな霧が包んでる。
最初のコメントを投稿しよう!