第1章

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 親兄弟は居らず、施設から脱出して旅館の手伝いをし、 階段の一番上にある公園の、あのボロ小屋に住んでる。  別に彼女と話す理由なんか無かったが、 最初に唐突に変な事を言われた。 「アンタんちの曲がった尻尾猫ね、汽車でこの街に来たよ。」 「なんで、そんな事が判るんだ?」 「見てたから。」 「見たって、駅から出てくるところをか?」 「そう。」 「なんで、俺んちの(正しくは婆ちゃんの。)猫だって判るんだ? この街は猫が随分と多いじゃないか。区別できるのか?」 「うちのシロがそう言ってたから。」  それだけ言うと、さっさと戻ろうとした。 休憩時間を過ぎたのかもしれない。  が、急に振り返って莢は言った。 「だから大丈夫。帰ってこれる。」  どういう事だろう?  莢の言葉で気付いた事があった。 この街に16年前に来た時から、猫だらけだった。 ただ、白い猫だけはいない。一度も見た事が無い。 「シロ?」  解らないまま、線路沿いに自転車を走らせた。 予想以上に、リュックが重くてバランスが難しい。 少し、訓練しておけばよかった。 仕方が無いので、進みながら慣れて行こう。 山道でもないのだし、急ぐわけでもない。  この街の長い階段は2箇所ある。 アナログ時計をイメージして、数字を方角だと見立てると 6時の辺りに駅があるのだが、7時・5時と階段は、 左周り、右回りに左右対称カーブ状に伸びる。 両方の階段は12時の場所にある大きな公園広場で繋がる。  俺は5時の階段を無視して、線路沿いの道を進む。 すぐに店も住宅も消える。誰も住んでいないのだ。 通行する人もいないが、道だけは舗装されていた。  何か曖昧だ。違う「あやふや」だ。 誰も出られない街ではないんだ。 誰も出ないだけなんだ。  よく見れば、道はずっと続く。 遠くには山影が見えるし、入道雲もある。 あの山影までいけるのだろうか。  但し、線路だけは、どこまで行っても 踏み切りはなく、トンネルも陸橋もない。 シグナルだけ、確実に一定間隔で設置されている。 監視されている気持ちになってくる。  階段に居る時は、特に気にしなかった。 外へでたとたんに、視られている気が。  外へでる?ここはいつのまにか霧の中だ。 これか、頂上公園から霞んで、あやふやに見えたのは。 左右対称が大雑把に、巡らされてる。 線路を逆方向へ進んでも、あやふやな霧が包んでる。
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