第1章

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 それほど動物のお話でもありません。  さてと。どんな動物だって、全てのニーズに 応えられるというわけじゃない。 いまから三百年くらい前の話なのだが 僕等ゾウはオスメスで来日した。 ロマンチックな恋人同士の旅行じゃない。  全てはビジネスの為だ。 それが人間の尺度で言う悲劇の始まり。 逆を言えば、仕事なら致し方なし。ってやつだ。  徳川家八代将軍の、吉宗は「暴れん坊将軍」で 有名らしいが、ゾウはテレビを見ないので よくは知らない。但し、好奇心旺盛で外国への 見識を深めたい勉強意欲は強かったらしい。  そんなわけで、世界最大の「ゾウ」なる 生き物を観察してみたい。そんな風に思った。 大志を抱くのは結構だが、連れてこられるこちらは 多大な迷惑であった。中国の商人に 「ゾウなら任せるアルよ。」と二つ返事で  1728年、6月に長崎へ僕等はやってきた。 もちろんインド象である。 残念ながら食事が合わなかったのか、 長旅の疲れがでたのか、相方の彼女は 長崎に滞在中にこの世を去った。  悲しかったけれど、僕はオスだから 彼女の分まで頑張ろうと思った。  例え骨になってしまったとしても。  僕一人だけで大雑把に一年かけて 翌年の5月頃に江戸にやってきた。 でかいし、重いから運搬手段が無い。 という、事で長崎から延々と歩かされた。 酷い仕打ちである。  注目が日本中から集まったのは旅の途中で 京都に立ち寄った時だ。時の天皇が 「ゾウを見物したい。」と仰った。  見世物興業主や、付き添い中国人は 花の都、京の町で一稼ぎできると思ったが なにせ天皇の御前である。 手続きから警護、ゾウを見たいとする公家。 そのような高貴な方々への配慮など 思いの他、大事になってしまった。  そもそも参内するには相応の位(つまり資格)が 必要である。付添い人はともかくも、 ゾウである僕自身には格が必要らしい。 どうこう何を言っても、ゾウはゾウなんだけど。  で、従四位という階級をゾウなのに持ってしまう。 ちなみに諸国並の大名より上なのだそうだから 「図が高い」くらい言ってもいいのだが 実際、僕にはあんまり興味が無い。  早く故郷へ返りたい。空は同じように青い。  関連グッズやキャラクター商品で儲けた人もいた。 本で特集されたりもした。 実は、僕等よりもう少し前にも日本にゾウが 来日した事はあったが、僕等が大当たりだったのだ。
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