第1章

3/4
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 10年程度だったけど。  1741年には流石に暴れん坊将軍。自分勝手なもので 「飽きた。」の一言で、僕は民間へ払い下げになった。 現在でいうと東京都中野に源助さんという農家の人がいて 130両程で、買い取られてしまった。 僕を飼育するのは日本人には大変だったんだろうね。  幕府でさえ根をあげたのだから、当然、食事も少ない。 江戸では水は貴重で、自由に水浴びもままならない。  暴れん坊将軍が飽きても、庶民はまだまだ飽きないし 大きくて立派なゾウだから、従四位ってのも大したものだ。 そんな事を言って、ゾウの彫り物を入れる若い衆もでた。  でも、もう僕には限界だったんだ。 出来れば、あの密林へ戻りたかったけど。 1742年。たった1年で130両も従四位を 病気で、お別れバイバイだ。  って思ってホッとした。でもねぇ。 彼岸からその後の顛末をみると、生きてるより酷い扱いかも。 皮膚は奇麗に削がれて、幕府に献上されたんだけど 大きな頭蓋骨と立派な牙は、源助さんのモノになった。 本当はボクのモノだったけど。死んじゃったから、まぁいいよ。  西瓜は余す所無し。っていうけど。ゾウはどうだろうね。 その後のエピソードなんだけど、奈良に古梅園という 造墨師が「貴重なゾウの皮の膠をもって特殊な墨を造作したい。」 と願い出た。  墨は煤と膠で造るが、膠は墨を紙、板、布等に浸透させて付着さ、 独特の透明感や艶を出す。膠こそ墨の要とも言ったらしい。  死して尚、余す所無しのゾウだけど。 源助さんは「従四位にまでなったゾウを食い潰した。」 と言われるようになって、後に多額の借金を残し病死した。  別に僕は何もしてないのだけれどね。 呪いや祟りなんて、都合のいいもんだね。 それのせいにしておけば、誰か個人が悪者にならない。 呪い祟りのせい、狐狸妖怪のせい、魑魅魍魎のせい。  人間の皆さんはお化けたちに本当はやり場の無い 悔しさや怒りに悲しみ、恨み辛み妬みそねみ。を 肩代わりして貰ってるって自覚しないと、 静寂なゾウの墓場になんて、程遠いですよ。 大した場所じゃないのに、そんなに凄そうに言わないでね。  人間から見ても同じ末路や、明らかに違う末路があるなら 「似たり寄ったりだけど、適わない末路」  さて、抹香臭い言葉の〆です。源助さんの遺族は 借金返済の処分に四苦八苦して、ゾウの皮や牙を
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!