第1章

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『明日でもいい?』 「アンタが決めろ。」 『明日、午前中の内に河川敷にある橋げたへ来て。 探偵さんと相棒さんだけで。』  言っておくが俺が探偵で、あの間抜けが助手で……。 【マロン】は素早く立ち去った。河川敷へ帰ったのだろう。 光の粒がほのかに残って、キラキラ輝いた。  人間にもこの光は見えるのだろうか。 俺もこの光を微かに憶えている気がする。  その夜、地図を睨みながら俺のエサも忘れて 酒臭い間抜け助手が、赤いペンでこれまで探した場所から 何か考えていた。人間の考える事なんてたかがしれてる。 大方、目撃証言から猫の移動範囲を予想してる。 人間のヒゲってのは本当に無駄で役に立たん。 エサを寄越せと皿で突っついた。 「おお【オプ】すまんすまん。飯だったな。 よし、捜索が成功するように乾杯といこう。 そうだろう?【オプ】よ!」  俺は何も言わず、食ってすぐ寝た。明日は早い。 この寝坊すけに水をぶっかけて、叩き起こす事からだ。 人間はなんて面倒な生き物だ。俺が飼い猫でありがたく思え。 ブラインドから見憶えのある月が、銀色に光を注ぐ。  おやすみ。  翌日の午後。晴天なり。  俺と【隣のマロン】は河川敷の風が心地よい高さから 橋げたの下を見ていた。  女の子がオッサンの横で、ひたすらに泣いている。 小学校高学年位の女の子だ。ひたすらに泣いている。  この状況を探偵らしく解釈するなら、オッサンが誘拐犯に見える。 まぁ、幸いにも女の子のお母さんが、横にいるからいいが。 たしかミカちゃんという名前だったと思う。  彼女が、やわらかい真っ白なタオルケットに包まれた マロンを抱きしめていた。泣き止まない。  《こちらで手配する事もできますが。》  《会うと言って聞かないんです。ご迷惑をお掛けしますが。》  《では、お待ちしておりますので。》  足元にはオッサンが午前中に走り回って 用意した花束と線香、キャットフード等など。 全てマロンが倒れていた場所に置いてある。  今は、彼女達の様子を見ているだけでオッサンは 何も言わないし、動かない。 張り込みの時みたいに、ミカとマロンをみている。 邪魔はできない。オッサンは猫の邪魔はしない。  俺の【隣のマロン】が言った。 『ちょうどね、反対側からこの上の国道へ出ちゃったの。』 「縄張りだったのか?」 『メスだから狭いけど一応ね。あなたにあげようか?』
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