第1章

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 街を見上げるように左右に伸びる巨大階段を 一箇所で同時に見渡す事は出来ない。 駅前が湾曲してるので、微妙な位置で 建物のカゲに入ってしまう。  それでなくても、この街の駅前は 増築、改築で迷宮化している。  街を抱きかかえる太い両腕のような、 東西の巨大階段を昇りきれば、頂上公園と 誰もが呼んでいる、実際の名称も判らない そもそも公園なのかどうかも不明な広場がある。  公園といっても児童向けの遊戯もない。 何を意味しているのか解らない、シュールな オブジェが点在していて、大きな街灯がある。  その反対側に以前は、朽ちて廃墟だった管理者の 掃除用具小屋か何かがガレキになっていたのだが 最近になって、修復されているのが判るし 隙間から覗き見れば、誰かが住んでいる形跡もある。 猫にエサを与える少女が目撃されたりしている。  ともあれ、左右を常に建物に挟まれて空が 僅かしか見えない、この街にとっては 唯一の両手を広げたより、空を眺められる場所だ。 野良猫の溜まり場でもある。  憩いの場と言えなくもないが訪れる人は少ない。 何もなさすぎるからだろうか。無意味に広い事が この迷宮街に住みなれた人々にとって、 開放感の方が、息苦しいのかもしれない。  但しこの頂上公園からも東西階段をみれる場所は 一箇所もない。街灯によじ登ればあるいは。だが 街灯も小屋同様に朽ちていて、折れてしまいそう。 ガス灯は自動で、黄昏時に灯り彼誰時に消える。  つまり、この街を支配する東西の巨大階段は どちらか1つしか見れない。  駅の反対側へ行く手段がない為、線路向こうの 同じ街(だと思われている)を誰も知らないのと 大差がない。鉄道職員自身はどうなのかも不明だ。  いかなる者であっても反対側の街へ抜けられない。  踏み切りは無く、線路を越えれば管理信号の ”シグナル”が至る所に設置されて、即座に 戻されて街の規定によって全ての所有財産を 剥奪されて、通常見かけない”護送列車”で この街からどこかへ強制移住させられる。 戻った者は、存在していないらしい。  鉄道職員は、この街の住人であるはずだが、 街の住人とは業務以外では、関わらない生活が 徹底しているらしく、仕事中の姿しか見ない。 世間話を持ちかけても、私語は一切しない。 無表情に会釈するだけである。名札は番号のみだ。  駅から少し離れた場所に、鉄道職員の宿舎がある。
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