第1章

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 α博士は睡眠に関する研究で、世界的に知られていた。 しかし最近は隠遁したように、秘密裏に研究室にこもって 誰とも会わず、インタビュー等にも応じていないという。  ある人は新しい研究が、完成しつつあるためであり 安全確保が出来るまで、情報が漏れない為だともいうが  逆にある人は、α博士が最後に知人に話したとされる、 研究中の内容が酷く危険なもので、学会から追放されるかも そんな噂話だけが、しばらく世間を賑わせていたのだが それも数年も経たない内に、忘れ去られてα博士は今は 過去の人としてしか、話題にならなくなっていた。  私がα博士の研究室へ入る事を許されたのは、詳しくは 話す必要が無いだろう。偶然といえば偶然なのだし、 金も使ったし、色々と根回しもした。つまりこの部分は α博士同様に私の秘密なので、具体的には記録しない。  大事なのは私が許可を得た理由は、私がα博士に、 面会したかったのが、その噂話が流れていた研究ではなく α博士に頼みごとがあったからだ。 『夢を見たくないのです。』  α博士はユーモアを交えたような微笑みで訊いた。 「それは、どちらの?」  私は苦笑しながらも、それはそうだと思い答えた。 『はい、努力し目標や希望をたてるのではなく、もちろん 睡眠に関する方の夢です。α博士ならば助けて頂けると。』  α博士は私を見ないで続けた。 「つまり、眠っても夢を見ないようにしたいと?」 『そうです。私は睡眠の仕組みも、脳の働きも深く学んでおらず 本来ならα博士の研究室に、出入り出来る人間ではありません。』 「悪夢はともかくとして、良い夢も見たくないのですか?」 『はい。私自身は夢は徹底的に無感動でない限りは 覚醒後には、悪夢でしかないからです。  例えば大金を得るとか、大成功するという夢だけでなく、 単純に楽しい旅行の夢でも、学生時代の自分が部活に 励んだ思い出のような夢であっても、起きてしまえば、 全ては消えてしまいます。』 「どうであれ喪失感がある気持ちを、お持ちになるわけですか。 つまりは夢ごときでガッカリしたくないわけですな。  だがしかし、悪夢や恐怖を感じる夢の場合は 解放や安堵を感じたりもしませんか?」 『それも駄目なのです。たしかに何か殺人鬼のような 不気味な存在に追われる夢、現実的に仕事で大失敗する夢、 過去の実際に体験した恐怖や絶望感を、イメージさせるような
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