第1章

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落ちるのも怖くて、カバンから手を放せなかった。 違う、そうじゃない。カバンが私の手に絡みついたような。  危ない!  激突する瞬間、カバンは90度に捻って黒板に向って、 痛みも音も感じないまま、飛び込んだのか激突したのか。  水面に飛び込む感覚のように、私は屋上に抜けていた。 更にカバンは跳ね上がる。L字クランクのように上へ。  真下を見ると黒い丸い穴のようなモノが 徐々に閉じて行くところだった。あの穴は何? 「下ろして!」  自分のカバンに向って叫ぶ。 何も変化が無く更に上昇する。 無理に私は、逆さになったカバンを開いてみた。 筆記用具、教科書、ノート、色々なものが落ちて行く。 ボコボコと、顔に当たる。  そしてテニスボールが1つ、私の制服のリボンに当たった。 と思ったら、夏服のシャツに溶け込むように 私の胸元辺りへ入ってきた。  何これ?!  私はテニス部じゃない。こんなボール持ってない。  突然、カバンは何の反応も無くなって 私の手から離れ屋上へ落ちて行く。 私は私だけで更に上昇していく。  夕日が眩しい。歪んでいく。沈んでいく。日が暮れる。 夜が来る。暗い夜が。涼しい夜が。来る。  何故、このときそう思ったのかは全然、解らない。 私はシャツの隙間に入り込んだ、ボールに向って怒鳴った。 無理にいうなら、本能的に。 「冷やすよ!」  何でそんな言葉が出たのか判らなかった。  突然、私は静かにゆっくり、日が沈むように 屋上まで下りていき、ヘナヘナとしゃがみ込んだ。 起きた事にも、どうやって屋上にきたのかも さっきのテニスボールが誰のものかも、  どうしてあんな事を叫んだのだろう。 「何、何なのこれ?!」  胸元のテニスボールのようなものを取り出すと ガクガクと震えて、すぐに私の胸元へ戻ろうとする。 まるで、ボールの方が何かに怯えているような。  さすがに下着や素肌に触られるのは嫌だから 胸ポケットへ押し込んで、周囲に散らばっている カバンの中身を片付けた。  参考書が、おでこにぶつかった傷み以外は 怪我もしていないし、制服も破れていない。 少しシャツが汚れたくらい。 スカートも破れたりしてないから、 やっぱり天井には、ぶつかっていない気がした。  でも、どうしよう。  屋上から出たくても鍵が掛かっているし。 誰か来るまで、今夜一晩ここにいるのは嫌だし。
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