第1章

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下へ向って助けを呼べないか、まだ野球部の人がいるかも。 大急ぎで屋上の出口を回り込んだ。その時。  一人、音楽を聴いて座っている男子生徒がいた。 どうであれ、出られるかもしれない。 「あ、あの。」  彼はヘッドホンを外さないまま、目だけで私を見て言った。 「みずいろ。」 「え?」  私は咄嗟に声をだしてしまった。が、 直ぐに意味を察して【パーン!】思わず引っ叩いてしまった。 唯一、出口を知ってる人かもしれないのに。  それ以前に、今はここに私とこの人しかいない。 私はヤバイかもしれないと思った。それも違う気がした。 彼は相変わらず、ヘッドホンを外さないで無愛想に言う。 「違った?」  私は又少しムッとして、言い返した。 「見てたのなら、助けてくれたっていいじゃない! 下りてくる時にスカートだけ見てるなんて最低!」 「あんたが『下ろして』って言ったから どうしようか考えてた。でも自分から下りてきた。 それだけだよ。」  そう言いながら、興味を失くした様に 夕日が沈んでいく山の方を向いてる。 確かに、確かにそれはそうなんだろうけど、 私は何か言い返さないと、イライラしてつい どうでもいいような事を気にして。 「ヘッドホンしてたくせに、何で聞こえたのよ。」 「何も聴いてないから。」  そう言って彼はフォンジャックを見せた。 どこにも差さっていない。 「何で鍵のかかってる屋上に出入りしてるの?!」  相変わらずケンカ腰の口調かなとは思ったけれど。 こんな非常識なのに、動揺してる自分と真逆な彼に 八つ当たりしている気がして、ようやく気がついて。  今頃になって、怖くなって涙が。怖かったけど。 あれ?怖かった?違う、私は最初から怖がってない。 「それ、約束通り冷やしちゃ駄目なんじゃない?」  そういって私の胸ポケットを指差した。 本当に熱くなってる。自分でボールが発熱してるみたい。 取り出して手の平で包むと、震えていたボールが静かになった。 あれ?これボールと違う。何これ、黄色くて柔らかくて暖かい。 「約束は守りなよ。これやるよ。」  彼はそういってカバンから、フカフカのミニタオルを差し出した。 受け取ると、何故かとても暖かい。これも何だろう?タオルじゃない。 人肌の温度を保つ暖房器具みたいな。でも、カバンから出してた。  これで包めという意味なの?この人は何なのだろう?
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