2人が本棚に入れています
本棚に追加
下へ向って助けを呼べないか、まだ野球部の人がいるかも。
大急ぎで屋上の出口を回り込んだ。その時。
一人、音楽を聴いて座っている男子生徒がいた。
どうであれ、出られるかもしれない。
「あ、あの。」
彼はヘッドホンを外さないまま、目だけで私を見て言った。
「みずいろ。」
「え?」
私は咄嗟に声をだしてしまった。が、
直ぐに意味を察して【パーン!】思わず引っ叩いてしまった。
唯一、出口を知ってる人かもしれないのに。
それ以前に、今はここに私とこの人しかいない。
私はヤバイかもしれないと思った。それも違う気がした。
彼は相変わらず、ヘッドホンを外さないで無愛想に言う。
「違った?」
私は又少しムッとして、言い返した。
「見てたのなら、助けてくれたっていいじゃない!
下りてくる時にスカートだけ見てるなんて最低!」
「あんたが『下ろして』って言ったから
どうしようか考えてた。でも自分から下りてきた。
それだけだよ。」
そう言いながら、興味を失くした様に
夕日が沈んでいく山の方を向いてる。
確かに、確かにそれはそうなんだろうけど、
私は何か言い返さないと、イライラしてつい
どうでもいいような事を気にして。
「ヘッドホンしてたくせに、何で聞こえたのよ。」
「何も聴いてないから。」
そう言って彼はフォンジャックを見せた。
どこにも差さっていない。
「何で鍵のかかってる屋上に出入りしてるの?!」
相変わらずケンカ腰の口調かなとは思ったけれど。
こんな非常識なのに、動揺してる自分と真逆な彼に
八つ当たりしている気がして、ようやく気がついて。
今頃になって、怖くなって涙が。怖かったけど。
あれ?怖かった?違う、私は最初から怖がってない。
「それ、約束通り冷やしちゃ駄目なんじゃない?」
そういって私の胸ポケットを指差した。
本当に熱くなってる。自分でボールが発熱してるみたい。
取り出して手の平で包むと、震えていたボールが静かになった。
あれ?これボールと違う。何これ、黄色くて柔らかくて暖かい。
「約束は守りなよ。これやるよ。」
彼はそういってカバンから、フカフカのミニタオルを差し出した。
受け取ると、何故かとても暖かい。これも何だろう?タオルじゃない。
人肌の温度を保つ暖房器具みたいな。でも、カバンから出してた。
これで包めという意味なの?この人は何なのだろう?
最初のコメントを投稿しよう!