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彼はこのボールが何だか知ってるの?解らない事だらけで
呆けて受け取った時に、一緒に包んであった鍵が落ちた。
あれ?
「屋上の合鍵。やるって言っただろ。」
「え、でもあの、貴方は?」
彼は自分の鞄か、数珠なりの凄い数の、鍵を取り出して見せた。
幾らでも予備があるという意味、何処にでも場所を移せる証明。
私は彼の居場所を奪い来た訳じゃない。けれども。
「鍵、いいの?」
「もうすぐ夜になるから。女子生徒は危ないよ。
それは幾らでも作れる。もう帰ったほうがいい。」
そうだ、最近この周辺で不審者の警戒が強くなってる。
夏前に通り魔未遂が何件かあって、先生も注意してた。
「あ、ありがとう。さっきは叩いてごめんなさい。」
彼は手だけ振りながら、また夕日を見てる。
もういいよ。とも、早くどっか行ってとも見える。
やはり考えてみれば、私が邪魔なのかもしれない。
大人しくカバンを拾って、ミニタオルのようなモノで包んだ
ボールのようなモノをカバンに、静かに仕舞う。
貰った鍵で、屋上の出口を開けたとき
こちらも見ずに、無愛想に彼が言った。
「大体、放課後はここにいるから。質問はその時だけね。
あと、むやみに黒板に触らず、黒板消しを使うといい。」
え?どういう意味だろう。彼は私に何かを教えてくれるの?
私は何を尋ねればいいのかも、まだよく解っていない。
これが幻覚か夢なのじゃないかと、疑ってたはずなのに。
でも、私が邪魔では無いのかもしれない。だから。
「じゃあ、1つだけ。貴方の名前は?」
「みずいろ。それだけでいいよ。今は。」
ちょっと、ムっとしたけれど、
この人のペースが解り難い。
でも手助けして貰った。私も挨拶を返す。
「ありがとう。私は2年のアサギ・ユウ。
浅い黄色に、夕方の夕。」
「そう。じゃあな。きいろ。」
なんだかな。こういう人なんだろう。
無愛想だからって、悪い人ってわけじゃない気がする。
鍵を握り締めて言った。「じゃあ、さようなら。」
私は校舎を駆け降りて行く。
廊下で先生に挨拶すると、他に残っている奴いたか?
と訊かれた。何故か何となく。「いいえ。」と答えた。
なるべく人通りがある道で、早く帰宅しろって言われた。
校庭の出て、暗くなる前にと自転車の鍵を探す。
さっきの屋上の鍵と一緒に掴んだので、
自転車を引っ張り出してから、もう一度屋上をみた。
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