第1章

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 渋くダンディであり腕は逞しく太い。鍛錬を怠らずマッチョ。 アゴヒゲは漆黒で粋である、だが口ヒゲは伸ばさない。 同じくブラックスーツに、薄い水色のネクタイ。 ソフトの中折れ帽を目深に被れば、どこから見ても誰が見ても 「ハードボイルド」と思うはずに違いない。  俺の事務所兼住居はブラインドからの陽射しで(西日) コントラストに染まる。まさに男の仕事場。そこに 古めかしい黒電話、バーボンの空き瓶。書類と写真の山。 足を投げ出して、そのまま眠る。   ときに人は俺をこう呼ぶ。 ディテクティヴ・オブ・ネコ。(絶賛、割引サービス中!)  猫専門探し探偵「ヒゲっち。」……。と呼ばれている。 本当は猫探し専門というわけではないのだが、他に仕事が無い。 あまりにダンディすぎる為に、浮気調査で女性を見張れば 通報されてストーカー扱い。別件で、男性を追跡していたら そっち嗜好の方であり、逆に追跡されてトラウマになったり。  とにかく向いていない気がした。そこで探し人を中心に ついでに犬・猫探しも請け負っている。そういう探偵だ。 念のために言っておくが、難事件も密室も解明しないので そこだけはお忘れなく。  しかし人探しの仕事より意外に、猫探しの仕事が多い。 この町は少し郊外にあるので、下手に迷うと大きな川もあるし 山の中まで彷徨いこんでしまう事がある。大都会の迷路もだが 自然界の迷路も又、危険なのだ。蛇くらいはいたりする。  そういう事から依頼主本人、同伴者が子供である事が多い。 俺の容姿の問題か猫の心配故か、不安げな少年少女達は 顔を曇らせて依頼に来る。その解決策として探偵ではなく 「ヒゲっち」と呼んで貰っている。博愛精神のアイデア。  この名案は探偵助手の相棒で、俺と同じ漆黒の毛並みに、 手足の先だけが純白である、凛々しい猫の【オプ】を 抱きしめて、アゴヒゲでなでなですると、大変に 気持ち良さそうにして、愛らしい肉級で俺の頬を押すのだ。 引っかかれた事だってある。パワフルな愛情表現だ。 余程、俺のアゴヒゲが好きに違いないはず。  ダンディだが、猫が好き。それが俺、猫探偵ヒゲっち! (小説はポーズをお見せできず残念。ビキニパンツ一丁。)  ただ、アゴヒゲなでなでをやると、たまに2、3日は 帰ってこない時がある。つまり【オプ】は照れ屋なのだ。 そういう純情な一面も探偵助手には必要だと弁えている。
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