第1章

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小豆ムラサキだったのだ!甘いものが好きな俺は、夢中になった。  念の為に言うが幻覚でもない。 「では【あんころ】をお受けして帰ります。」親類の婆ちゃんは 名付けるのも帰宅もはやいわねえ。と言う。Yes, I am !!  当たり前だ。はやく二人の季節をエンジョイさせてくれ。 猛暑とか残暑とか、そういうのイイから! だが「【あんころたん(活用形)】ここが新しいお家ですよ!」  初夜から大変だった。鳴きっぱなしである。 いきなり知らない家に連れてこられ、そして親からも遠ざかり。 まだ赤子同然の【あんころたん】に俺は土下座した。 「すまぬ!命をかけても必ずや守ってみせる! どうか家族として、俺を認めて下さい!」  次の日から【あんころ】は、寂しさの為に鳴かなくなった。 その代わり、家中をひっくり返すほどに探検しはじめた。 そして、よく食べた。本当に餅になるんじゃないかって程に。  それから11年。【あんころ】も、充分に大人。貫録も出て。 静かな所作も憶えて。と言いたいのだが、酷かった。 こうまで、スズメやらヤモリやらをハンティングしては 自分で引き戸の開け閉めなど、軽々こなし。  バイオハザードならば、生き残る類の女性である。 木にも屋根にも軽々のぼり。凄まじい狩猟スキルである。  偶に取り逃がす。それを見てると、何事も無かったかのように 塀の上で空を眺める。何事もなかったかのように。  大物ならハトすら捕まえる。どうあれ黙っていられない。 こちらは博愛のボディビルダー。ハトの涙目を見逃せない。 必死、エサ、玩具、ボール、あらゆるもので【あんころ】を釣る。 そしてハトを逃がした後は、大変に機嫌が悪くなる。 噛むし。鍛えてても痛い。だが噛ませる。博愛だ。でも。  痛い。  そう。さすがにイントラクターとしてボディビルを 営むには、自分にも限界を感じていた頃だった。 【あんころ】も随分、重くなった。違う仕事を意識していた。  しばらく、休暇をとって考える事にした。  その時も夏だった。青い空と入道雲がホリゾントみたいに 出来上がったばっかりの初夏だった。【あんころ】はメスとはいえ 大きくケンカも強い。従って外の縄張りとは違っても 俺の家と庭に、勝手に他所猫を侵入させる事は無かった。  クソ猫はフラっとやってきた。首輪が無かったので野良かと思った。 とにかくこの庭に別の猫が来るのは珍しい。奇麗な漆黒の毛並みに
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