第1章

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前後ろの手足だけ純白。まだ2歳くらいだろうか? 失敬し、確認すると♂猫である。かなり痩せていて、疲れていた。  エサを進呈すると、親の仇のように食いまくった。 「おまえさん、どこの猫かな。野良さんかい?」  そう聞いたら、プイっと立ち去ってしまった。無礼な!だが彼には 行くところがあるのだろう。俺は特に気にとめなかった。 本当は、この日の事さえ忘れていたのだ。ずっと。  何故なら、この日【あんころ】は帰ってこなかった。  彼女も既に、堂々たる風格。1日くらいの外泊はいい。 だが、3日間も留守にしたのは初めての事だ。 【あんころ】に何か異変があったのでは。 家の便器に落ちるようなチビでも間抜けでも無い。 病気、怪我、事故、様々な事が頭をよぎる。  そして俺の人生初になる『猫探し』が始まった。  とにかく、迷子猫のチラシを大量に作っておいた。 家の前で掃除をしている方に、チラシを見てもらう。  失礼ながら、ポストへチラシを投函させて頂く。 【あんころ】の縄張りのルートは大体判っている。  まずは縄張り巡回をなぞって、なぞって。なぞ。? あの黒白猫が、俺についてくる。エサのせいで憶えたのか すまないが、一度戻ってエサをあげるわけにはいかず 【あんころ】が見つかった時の為のエサ箱から、 煮干を少し置いてやる。  だが、白黒猫は煮干には興味を示さず、俺をグイグイ押す。 そして歩き出す。「来いよ。」そんな感じだ。白黒猫は 俺の家から随分と離れた、駐車場で近所の方から寝ているのを 目撃されていた。赤い首輪に鈴。多分間違いない。  実際、訊ね歩いてみると【あんころ】はここらでは有名で 可愛がってくださる方も多くいた。  だが、予想よりも遠くまで移動している。昨夜は大通りを 3つも抜けた先の、お宅の倉庫下で寝ていたらしい。  実はここ最近、俺の家の前で大掛かりな道路工事が始まり 帰るに帰れないという状態はないか、考えてみた。 地図を引っ張っても、どうにも家から遠ざかっている。  そして白黒猫はいつのまにか、どこかへ行ってしまった。  次の日の朝。今日こそはと靴紐を結んで出かける。 玄関の先に、あの白黒猫が待っていた。「ニャア。」 昨日とちがうので、ミルクを出してみたが、気にも止めずに やはり昨日のように、背中をグイグイ押してくる。  なんだろう?変なネコだな。だがネコは好きだから許す。
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