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「俺がなんの仕事してるか知ってんの?」
「知ってる。ルナのオーナーだろ?バーテンもしてるけど。でも裏の仕事の方が、有名だよね。」
「へぇ…」
知られていたことに、少なからず驚いた。
こんなチビ、ルナで見た覚えがない。
まず、入店の時点で断るだろう。
まして、裏の事となれば、知っている人間なんて僅かだ。
「で、何やるつもり。」
「何でもいい。俺も、ルナに入りたい。」
「…入って、どーすんの。」
「そしたら、死んでもいい。」
「は?」
聞き間違いかと思って、俺は首を傾げた。
だが、少年は笑顔でもう一度はっきりと言う。
「そしたら、いつ死んでも、もういい。」
今更気付く。
脱色しないで、染まった髪色は、赤。
黒にきちんと入り込んでいない赤。
安っぽい赤だ。
「…ふーん…」
息のできない水の底からなんとか這い上がろうとして、少しの光でも吸い取って浮上したい、そういう種類の人間は、容易く強い者に惹かれる。
利用するにも、容易い。
若い故に、向こう見ずで、命を軽く考えているから。
「いいよ。」
笑顔を更に深くした少年の、安っぽい筈の髪色が、夕焼けのせいで、やたら鮮やかに染まっていた。
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