第1章 シンデレラの靴

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 男達は皆同じようなスーツを着て、似たような髪型をしており、あたりに注意を払う暇などない、とばかりの無表情な顔で足早に歩み去る。彼を見つけようとの努力は徒労に終わったのだった。  いったい毎朝何人の乗客が、この時間帯の中央線に乗り東京駅へ通勤しているのだろうか。何万人? 何十万人?   冷静に考えてみれば、宝くじを当てるほどの運がないことには、人で溢れているこの東京で、一度見かけただけの男を探し出すことなんてできないに違いない。  でも、真実子はその運に賭けてみたいと思った。  理由などないのだが、彼にはまた逢える、という気がする。また逢いたいと強く願ってさえいれば、ばったり巡り逢えるかもしれない、と信じたかった。  それから毎朝早い時間の電車に乗ってみたけれど、馴れない早起きに睡眠不足がつのるばかりで、結局男の姿は見当らなかった。  金曜日になると、男に逢えるかもとの希望もさすがに薄れ、ひょっとして真実子と同じく、例の彼も月曜日だけたまたま早朝出勤であの時間の電車に乗っていた、という可能性に気づいた。  そうだとすると中央線は本数が多いから、偶然同じ電車に乗り合わせる確立は限りなく低い。  男を探し出す唯一の手立てとなる赤い糸が、握っていたはずの手からするりと抜け落ちてしまったみたいで、真実子は自分でもあきれるほど意気消沈した。  いや、赤い糸じゃなかったのかもしれない。単に、縁がなかったということ。  それは現実的な結論に違いないが、一週間も男のことばかり考え続けていた身には、すぐには呑みこめない過酷な結末だ。 「真実子ったらまたぼんやりしちゃって。また例の彼のことを考えているわけ?」  香織の声に、真実子は我に返った。    昼食に訪れたのは、オフィスビルの一階にある広々としたカフェバーだ。中央にはカウンターバーがあり、テレビのスクリーンが英語のケーブルニュースやスポーツ試合を放映している。  外資系企業もオフィスを構えているビルだからか、ちょっとアメリカンを気取った店で、外人社員の姿もちらほら見えた。  バーの近くは騒々しいので、いつも窓際のテーブル席に陣取ることにしている。大きな窓ガラス越しに街路樹や行き交う人々の姿が見え、戸外のカフェテラスに座っているようで、開放的で気持ちがいい。
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