第1章 シンデレラの靴

11/13
前へ
/112ページ
次へ
 あけすけな香織は、素敵な男性に出逢ったりすると勇んで報告してくれるのだが、その数たるや一ヶ月に数人のペースで、その後どうなったのか判然としないまま、彼女の口に上らなくなった男達も多い。  真面目に付き合っているのよ、と香織は言うが、それは、逢う時には相手のことしか考えていない、というほどの意味らしく、翌日には他の男と食事に行ったりしている。一人に絞るほどの相手にまだ出逢っていない、というのが彼女の言い訳だ。  縁があった、なんて結婚にゴールインした人が言うのは後解釈、と始終一目惚れもどきを繰り返している香織は断言する。縁なんて自分で創るものだ、というわけだ。  ダブルデートという案に気乗りはしなかったけれど、デートする相手などいない身なので、断る理由を思いつけない。  昨年まで一年ちょっと付き合っていた田崎とは、彼が福岡に転勤した際に自然消滅のような形で別れた。  転勤を機に、結婚しよう、と言い出してくれるのでは、とかすかに期待していたので、プロポーズされなかったことでシラけてしまったのだ。  だからといって、求婚されていたら承諾したかどうかは、自分でもよくわからない。  思い返してみると、いい人だったけれどそれ以上ではなかった気がする。しかし勢いさえあれば、結婚していたかもしれない相手ではある。  是非ゴールインしたかったというより、これだけ交際したのだからプロポーズぐらいしてくれてもいいはずだ、というあたりが本音で、結婚の話を持ち出してくれなかった彼に幻滅した、というわけだ。  二十代も終わろうとしているのに恋人ナシとは淋しい話だと自嘲し、真実子はカフェに集う人々を眺め廻した。一緒に食事をしている若い男と女が、皆カップルに見えてくる。    相手のいない女なんて、ひょっとしてこの私だけ?  焦りとも諦めともつかない気分に滅入り、バーに何気なく視線を向けた時だった。  心臓が破裂しそうなほど大きな動悸を打ったのが、わかった。  なんとそこに、探していた彼がいるではないか。  駅で見かけた男はカウンターバーに肘をもたせかけて立っており、蝶ネクタイをした若い外人の男と話していた。  カウンターと真実子の席の間を、食事を終えた客や食後のコーヒーを飲みに来た人などがしきりに行き交うので、男の横顔が垣間見えたり人影に隠れて見えなかったり。
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

550人が本棚に入れています
本棚に追加