第1章 シンデレラの靴

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「今さら何を弱気なこと言っているのよ。この一週間、彼の話ばかりしていたくせに。真実子が自分で挨拶できないんだったら、私が名前と連絡先をもらって来てあげようか?」  半ば本気で提案してくれている香織を、真実子は急いで制した。 「香織、そんなこと、恥ずかしいからやめてよ」  そしてもう一度カウンターを振り向いた時には、彼らの姿は忽然と消えていたのだった。  また彼を見失ってしまった。今からでも遅くないかもしれず、勇気を奮い起こして、急いで後を追うべきだろうか。  カフェバーの入口近くに視線を泳がせながら、しかし不思議なことに、再び彼に出逢うであろう予感がしてきた。理由などないのだけれど、確信、と呼んでいいかもしれない。  だってそうじゃない、と真実子は自分に言い聞かせる。  この店にいたということは、彼は八重洲とかではなく丸の内側に勤めているらしい。そうだとしたら、いつどこでバッタリ出逢っても不思議ではない。  逢いたいと願い再会を信じてさえいれば、もし縁がある男であれば、きっとまた彼を見かけるに違いない、と思えた。 (第2章に続く)
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