第2章 プリンスの正体

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 土曜日に、真実子は大学以来の友人である玲子の家を訪ねた。  彼女が住む下北沢のマンションは、樹木に囲まれたタイル張りの瀟洒な造りで、招かれるたびに、結婚も悪くないかな、と思わされる。  あらゆる意味で優等生だった玲子は、大学二年の時から付き合っていた高木と結婚し、共稼ぎしている。高木は出張中とのことで、今日は女二人で気楽にランチを食べる約束だ。  母親に習ったとかで玲子は昔から料理が好きで、学生時代にも手料理をもてなしてくれた。結婚してからは、週末に下準備して冷凍させ、平日も手際良く夕食を用意しているらしい。  大学時代に玲子のような美人の友達を持ったことは、ひょっとして人生の不幸だったのではないか、と真実子は時おり考える。  切れ長の涼しげな瞳を持つ女優顔の玲子と、毎日のように顔を合わせているうちに、どうもコンプレックスが生じたらしい。  玲子と高木と三人でよく出かけたりしたが、彼女をさも愛しそうに見る高木の眼差しに、男は皆、自分を素通りして玲子のようなビジュアル系に流れてしまうものだ、と思い知らされた。  高木はいかつい顔でハンサムとは言いがたいが、大学ラグビー部の名選手で人気があった。球場での荒くれ男は玲子の前では照れ屋で大人しく、無骨ながらも優しかった。  ダイニングテーブルの上には洒落た和風のランチマットが並べられている。座っていて、との言葉に甘え椅子に腰掛けていると、彼女が次々とオープンキッチンから料理を運んで来てくれた。 「すごいご馳走ね。玲子はそうして素敵な奥さんをやっているのに、こっちは進歩がなくて悲しくなっちゃう」  野菜の揚げ浸し、鮭の西京焼き、ひじきの煮物。手料理が色好く素焼きの皿や器に綺麗に盛られているのを見て、真実子は感激する。まさに本屋に並べられている料理教本に出て来そうなご馳走だ。 「真実子はきっといつも、丸の内や銀座あたりで洒落たイタリアンとかフランス料理でも食べているだろうと思ったから、今日は家庭料理にしたの」  カボチャの揚げ浸しのほっくりとした甘味をかみ締めながら、真実子は嘆いた。 「そんなに出歩いていないのよ。前の彼と別れてからは、もっぱら女友達と食べ歩くぐらい。 最近は、やっぱり和食っていいな、って思う。でも女同士でお総菜料理食べに行くのも、ちょっと格好つかないでしょう?  
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