第2章 プリンスの正体

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まるで、料理ができません、って公言しているみたいだし」 「あら、そういう店にこそ、一人で食べに来ている独身の男性とか、いるんじゃない? 真実子は基本的に淋しがり屋なんだから、早く新しい彼氏を見つけなさいよ」 「玲子はしっかりしているから、一人でもやっていけるタイプだけれど、そういう人がしっかりと結婚している。 私みたいに、どこかに素敵な人がいないかしら、といつも思っているようなのが、あぶれてしまうわけ」 「真実子は理想が高過ぎるんだ。白馬に乗った王子様の登場に憧れているから、身近にいる素敵な男性に気づかないだけじゃないの?」  大学時代にテニス部の先輩に憧れて、別に親しくなれたわけではなく、単なる片想いに毛が生えたぐらいの関係に過ぎなかったが、悶々とした胸の内や夢物語を、玲子に聞いてもらったものだ。  先輩の彼女にさえなれたら大学生活がバラ色になるように思え、憧れの彼の顔を拝むために、真面目に練習に出た。  それ以来、玲子に、プリンスの登場を待つシンデレラだ、とからかわれている。  実際、「シンデレラ症候群」という専門用語もあるそうで、誰かが、何かがやって来て、自分の人生を変え、救い出してくれるのを待っている、というわけだ。  当たっていないとは言えない。確かに、自分でことを起こすよりも、誰かに揺り起こされるのを待っている、と我ながら反省する。  今度も、また真実子の恋物語が始まった、と笑われるだろうか。 「それがねえ、ちょっと気になる人に出逢ってしまって。まだ言葉も交わしていないのに、なぜかいつも彼のことを考えてしまう」  真実子は駅で偶然に見かけた男の話をして、玲子の判断を仰いだ。 「本当に真実子って昔から変わっていないね。そうやって純粋な乙女感情に浸れるのは羨ましい限りだけれど、でも見かけだけで理想像を創りあげたりしない方がいいと思う。 先ずは本人を知って、そのうえで恋をしなきゃ」 「わかっているんだけれど、知り合う機会がなくて。そのくせ、彼のことが気になって仕方がないんだ」  玲子は湯呑みにお茶を継ぎ足してくれながら、釘を刺した。 「それが真実子の癖。いい?  どうして私は彼のことが気になるの、という質問を自分にした時から、恋を創りはじめているのよ。
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