第2章 プリンスの正体

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 玄米のおむすびを頬張ってそのつかえを呑みくだすと、真実子の頭が多少回転しはじめた。 「でも、香織は彼を見かけたことがないんでしょう? そうだとすると、彼がそのクラブのメンバーだという線は、薄いんじゃない?」 「でないとしても、あの彼女にそれとなく訊いてみてあげる」 「ちょっと、そんなことできるの? 知り合いってわけじゃないんでしょう?」 「まかせて。そうだ、ゲストとして一緒にいらっしゃいよ。あさっての水曜日がいいかな。彼女を見かけたのは水曜日だったと思う。ワークアウトする曜日を決めている人が多いからね」  香織は自信有りげな口調だ。  真実子は、今日のところはあの美人と対面などしたくないし、彼女が彼の何なのかを探るのもいやだったが、あさってになったら、きっと自分は香織について行くだろうと思った。  香織が入会しているアスレチック・クラブは日比谷にある。一階にブティックや航空会社のオフィスが入居している、晴海通りに面したビルの二階だ。  受付嬢は航空会社のキャビン・アテンダントみたいに髪をシニョンにまとめ、きっちりとした紺のスーツを着ていた。丸の内や日比谷のオフィス街に近いという場所柄、会員は勤め人が多いらしい。  トレーニングウェアに着替えてアスレチック器機が並ぶ広いフロアに出てみると、大通りに面した窓の前にはトレッドミルが並び、男女が黙々と走っていた。  その横で女性達がバストの筋肉を鍛えるマシンやヒップを引き締める器機と格闘している。まだ七時前と早いせいか、空いているマシンが多い。  見渡してみたが、例の彼女の姿は見当らないようだった。 「残念でした。でもせっかく来たんだから、汗を流して帰ろうよ」  香織の言葉にうなずき、真実子は取り敢えずジョギングでもすることにした。  物々しい器械で筋肉を鍛えるのは辛そうだけれど、走るぐらいならできる。生理中だという言い訳があるから、きつい運動なんてやりたくない。  トレッドミルをセットして軽く走り始めた真実子のそばで、香織はクラブのロゴが付いたポロシャツを着た若い男と親しげに喋っていた。トレーニングコーチらしい。  真実子の眼の端に、半袖からはみ出している男の逞しい二の腕が見え、褐色に日灼けした肌に盛り上がっている鍛えられた筋肉が、やたらにセクシーだ。
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