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思わず溜息がこぼれ、それを深呼吸にごまかした。どうして世の中はこう不公平にできているのだろう。
にんまりと笑みを浮かべて戻って来た香織にサウナに誘われ、真実子は大人しく後に従った。
裸体にタオルを巻いて女二人サウナに並んで座りながら、香織が何を聞き出してくれたのかを知りたくて、真実子の心がはやる。
「それで、どうだった?」
「ま、あわてないで。彼女はABC証券に勤めているんですって。アメリカン・バンキング・コーポレーション。二十三階から二十五階に入っている外資系の銀行よね。
やっぱりあそこ、お給料が相当いいんじゃない? 彼女、この前プラダの最新型のバッグを持っていたし、今日着ていたウェアだってレア物よね」
「香織、で、彼のことは探ってみてくれたの?」
「もちろん。前に下のカフェバーで一緒にいた背の高い日本人は同僚の方、って訊いたら、彼女は、誰のことかしら、っていう感じの顔をしていた。それから、ああ彼のことね、と言って教えてくれたわ」
香織がもったいぶって一呼吸おいたので、真実子は我慢できなくなり先を急かす。
「それで?」
「例の彼はサカキさんっていう人で、つい最近ニューヨークの本店から赴任して来たんだって」
サカキ。ニューヨーク帰り。
やっと名前がわかったというのに、ますます手の届かない人間に思えてきた。
「どうしよう、私、英語なんて大不得意」
真実子は額の汗を手の甲でぬぐいながら嘆いた。
英会話の教室に通ったこともあるのだが、頭の中で翻訳するくせが抜けなくて、一息遅れてしまう。教師は、英語を英語で理解して下さい、というようなことを言ったと記憶しているけれど、どうしたらそうできるのか、結局コツをつかめなかった。
香織に諭すような眼差しを向けられた。
「ちょっと、まだ知り合ってもいないくせに、そんなこと今から心配したってしょうがないじゃない。まさか日本人同士でデートするのに英語で話すわけ、ないでしょう?」
「でもアメリカ帰りだったら、外人のパーティーとかに行くかもしれないじゃない」
「真実子、デートもしていないくせに、そんなの無用の心配ってやつよ」
「でも、やっぱり外資の人と付き合うんだったら、英語ができないと駄目なんじゃないかなあ」
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