第2章 プリンスの正体

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「そんなことはうまく行ったあかつきに、万が一結婚することにでもなって、アメリカに駐在するとでもなったら、その時になってから心配すればいいのよ。 まったく、真実子ったら、いつも夢が現実をすっ飛ばして進行しちゃうんだからなあ」  香織の笑い声を聴きながら、汗が身体中から吹き出し、額の汗が流れ落ちて眼がしみた。    美人の彼女がカフェバーで、同僚にしてはいやに親しそうにサカキという男の腕に触れていたことを思い出す。  答えを聞くのが怖いが、肝心の質問を避けるわけにはいかない。 「香織、それで彼女は、ガールフレンドなの?」  香織はこまめに腕の汗をタオルの端でふきながら、しばらく考え込んでいた。 「そうじゃないみたいよ。でも、彼のことを話に持ち出したのは失敗だったかもね。彼女、一瞬私のことを詮索するような眼で見たわ。 ほら、ああいう強気タイプの美人は、他の女が目をつけたとなると、むやみに競争心をかき立てられたりするんだ。この女に負けるわけにはいかない、みたいな動機で男に関心を持ったりする。 彼女、真実子の彼氏に猛然とアタックするかもね」 「脅かさないでよ」  彼女のメリハリがあるボディーを思い出し、真実子は汗にまみれてタオルに包まれている自分の貧弱な体型に溜息を洩らした。 「真実子はいつものんびり構えているから、ちょっと手強いライバルが現われた方がいいんじゃない? まあ、彼女だったら敵として不足はないわけだから、せいぜい女磨きをすることね。 またここにいらっしゃいよ。結構いい男達も見かけるし、あのコーチの男の子もイイ線いっているでしょう?」  香織はひょっとしてあの若いコーチとできているのだろうか。一瞬いぶかったが、問い質すのはやめておいた。  それより、サカキの同僚だという美人の彼女の方が気にかかる。外資系に勤めているし、蝶ネクタイの外人男と話していたから、きっと英語もできるに違いない。敵わないことばかり。  ハンサムな男のまわりに綺麗な女性がいるのなんて当たり前、という世の中の現実を再認識させられると、ここのところ昂ぶっていた気持ちもさすがに萎えてきた。学生時代にだって、素敵な男子学生には可愛い彼女がいたものだ。  分相応、という言葉が頭に浮かび、気分が更に落ち込む。恋を妄想したところで、現実というものはやはり厳しい。  
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