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数ブロック歩いて皇居外苑の公園広場に行くと、ベンチはあらかた占領されていたが、中年の背広姿の男がちょうど立ち去ってくれたので、二人は空いたベンチに座り込んだ。
香織は真珠色のネイルを塗った指でクロワッサンを袋から出すと、さっそく詮索をはじめた。
「それで真実子、何か嬉しいことでもあったわけ?
あっ、その白いハイヒール、新しいでしょう。今まで会社にはいて来たことなかったじゃない。とっても素敵」
いつもファッションにうるさい香織の賞賛にまんざらでもなく、真実子は脚を伸ばして靴を見せびらかす。
「これね、ほら七月に香港に行った時に買ったんだけれど、今までお蔵入りしていたの。ヒールがあまりに高いから、ちょっと歩きにくくて」
「女は脚を美しく見せるためだったら多少の我慢をしなきゃ。へえ、ヒールがシルバーのメタルか。なんだかシンデレラっぽい靴だね」
「シンデレラの靴」か。
そうだとすると、この靴を拾ってくれた今朝の男は、ひょっとしてプリンスということになる。
そう思いついて真実子は思わず笑みを浮かべた。
「真実子ったら、また一人でニヤついたりして。白状しなさいよ。何があったの?」
わき腹を突つかれたので身をよじりながら、真実子は今朝のささやかな出逢いを喋りたくなった。
「それがね、今朝、東京駅で素敵な人を見かけてしまったの」
「そりゃラッシュアワーに電車から吐き出される膨大な人数を考えたら、一人や二人イケメンがいたって不思議はないけれど。でも、見かけただけじゃねえ」
「実は、電車から降りる時に突き飛ばされてこの新しいヒールが片方脱げちゃって。
そうしたらわざわざ電車に戻って靴を拾ってくれた人がいたの。それが、彼」
喋りながら、もしかしたらこれは「幸せを呼ぶ靴」かもしれないと思え、真実子は足先の白いハイヒールをうっとりと眺めた。
ふと、夢見ている人に出逢う、との香港の手相見の予言を思い出した。
香港で買った靴なのだから、ひょっとしてこのハイヒールが今朝の夢のような出逢いを招いてくれたのだろうか。
「で、名前は? どこに勤めている人なの?」
香織の現実的な追及が、ふくらんだシャボン玉のような真実子の夢をプチンと壊した。
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